NEWSポストセブン 2018.01.14 07:00
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SNSで「死にたい」とつぶやく若年層は多い
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 自殺対策基本法が公布、施行されてから10年以上が経つ。年間3万人を超えていた自殺者数は減ったが、女性や若者の死因上位にはいまも自殺がある。スマホやSNSの普及によってコミュニケーションのとりかたが急速に変わりつつあるいま、自殺願望だけでなく、死にたいと考えてしまう希死念慮を持つ人たちを、どのように生きることへ自然に繋げられるのか。ライターの森鷹久氏が当事者との対話から考えた。

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 2017年12月、政府は神奈川・座間市のアパートで男女9名の遺体が見つかった事件を受け「再発防止策」をまとめた。事件は、SNSで自殺を仄めかす投稿から始まっていたことから、警察当局が投稿者本人を特定するなどの自殺を未然に防ぐ、そそのかす書き込みなどの削除徹底に向けたパトロール強化などが盛り込まれている。しかし、果たしてこれが、本質を得たものだと言えるのか。

「悪く言えば“監視”、よく言えば……いや、何か良いことってあるんでしょうか?」

 座間の事件で逮捕された容疑者と、SNS上でやりとりした経験がある、関西地方に在住の女子大生・リコさん(仮名・20代)は、政府や当局が示す「対策」に疑問を呈する。「死にたい」「自殺したい」とつぶやくたびに見知らぬ人からの接触があると、SNSでも本音をつぶやけない雰囲気が強くなるというのだ。そして、SNS上で自殺を仄めかすユーザー達は居場所をなくし、彼ら、彼女たちがより見えづらくなるのではないか。そう考えているのだ。

 実は筆者も、座間事件の発生時にネット上で「自殺希望」とつぶやいていた複数のユーザーに対して行った聞き取りで、同じような「見解」、さらにはあまり明るくない「展望」を聞いていた。

 そもそも、座間事件の容疑者自身が供述していた通り、殺害された被害者はもちろん、ネット上で「死にたい」とつぶやいている人々は、本当に今すぐに死にたい、消えてなくなりたいと思っているわけではない、という事実がある。「死にたい」というつぶやきは、思いの吐露であり、痛みや辛さを少しでも解消することであり、同じ仲間を見つけることであり、自己の「生」そのものを確認することでもあった。

 彼女たちは具体的な問題があって死にたいと考える「自殺願望」というよりも、漠然と死を願う「希死念慮」にとらわれていたのだろう。

「かまってちゃん、面倒で気持ち悪い人間とか……。事件の後、SNSを通じて嫌がらせのようなメッセージがたくさん送られてきました。中には、会って肉体関係を結ぼうとしているような人もいた。最初は我慢していましたが、監視までされるようになるなら……アカウントを閉じました。辛くても寂しくても、それを吐露する場所がなくなってしまったんです」(リコさん)

 ここからが、死にたいとつぶやく当事者のリコさんが考える、「展望」部分だ。

 SNSで「死にたい」とつぶやくとすぐに警察や運営からの連絡がくるようになれば、同じ思いを持たない人たちからの目を気にする「死にたい」などと呟くユーザーらは、表に見える部分で目立たないように振る舞い始める。その結果、ダイレクトメールで知り合った人物などと、第三者から見えない部分で「死にたい」ことについてやりとりを始めるようになる。

 残念なことだが、こういった親密で閉鎖された集まりにも、死にたいと呟く人々を狙う悪意を持った人物が加わろうと画策する。そして、彼らは実に巧妙に、仲間のふりをして潜り込む。そして「死にたい」とつぶやくユーザーたちから金銭詐取や性的搾取、ひどい場合は命を奪うことそのものを企み、実行する可能性がある。

 現に、リコさんの以前のつぶやきをチェックしていた、もしくはネット上に残るキャッシュなどで見た第三者のうちの複数は、猥褻なメッセージを送ってきたり、執拗に会うことを要求し続けたりしている。

 こうやって、SNSの片隅でこっそり気持ちを吐き出していた弱い立場にある人々は、事件をきっかけに明るみに出されたことに戸惑い、恐怖すら感じている。そして、さらに見つかりづらい場所へと移動した。結果、本当なら保護されるべき弱者そのものが世間から見えにくくなり、危険により近いところに追いやられてしまったような格好になった。

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