日本経済新聞 2018/1/16
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO25455460Z00C18A1EAC000/

 障害者の採用に大きな変化が起きています。うつ病や発達障害などを抱える精神障害者の採用に企業が取り組み始め、一部では「売り手市場」ともいえる状況が出てきているのです。何が背景にあるのでしょうか。

 まず、2018年4月から法律が変わります。企業に義務づけられている障害者雇用の割合(法定雇用率)が2.0%から2.2%にあがります。これまで精神障害者は雇用率の計算対象ではありませんでしたが、法改正で対象に加わります。

 「精神障害者を必ず雇わなくてはいけない」という法律ではありませんが、現実には企業に変化を迫っています。身体障害者は約33万人、知的障害者は約11万人が企業に雇われており、ほぼ横ばいで飽和状態にあるとされます。しかし、精神障害者はまだ約5万人。雇用率を上げようとすれば、精神障害者の採用を増やす必要があるのです。

 企業は準備を進めています。コールセンター運営大手のトランスコスモスでは、ホームページ作成やマーケティングなど様々な部署で約60人の精神障害者が働いています。一度社会に出て、心を病んだ人が多いといいます。気持ちの波が大きい人らに対応するため、定期面談や体調に合わせた時短勤務などを取り入れています。

 トランスコスモス執行役員の古原広行さんは「いい人材は取り合いになる。長く働いてもらうには環境づくりが欠かせない」と話します。人材派遣・紹介会社のリクルートスタッフィングで障害者の就職を支援する染野弓美子さんも「この2年ほどで精神障害者の採用市場は変わってきている。企業が内定を出しても、複数の内定を得ている人から断られるケースが増えている」と見ています。

 精神障害を抱える人の意識も変わってきています。16年度に精神障害者がハローワークに申し込んだ新規求職は8万6000件と、10年前の4.5倍に膨らんでいます。文京学院大学の松為信雄教授は「障害をオープンにして働くという大きな流れがある」と指摘します。

 子どもの頃からパニック障害を抱える鈴木公太さん(仮名)は大学卒業後に普通に就職しました。しかしある日、症状が出て会社を辞めることに。その後、障害があることを明らかにしたうえで今の会社に再就職しました。「体調が悪いときも職場の理解が得られて安心して働ける」と鈴木さんは話します。

 こうした動きが出てきている一方で、3割の企業が障害者を1人も雇っていない現実もあります。人口減少社会を迎える中で、働きたいと願う障害者に少しでも多く応えることは企業の社会的責任ではないでしょうか。

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