http://www.sankei.com/smp/west/news/180130/wst1801300098-s1.html

 戦前に創業し、今も当時の姿を残す歴史と伝統を守り続ける全国の9つのホテルが「日本クラシックホテルの会」を設立し、各ホテルをめぐるための共通パスポートを作成した。関西では皇室御用達の「奈良ホテル」(奈良市)が加盟。レストランや宴会場のない宿泊特化型の新ホテルが増える中、それ自体が名所旧跡という異彩を放つクラシックホテルが、優雅な旅へと誘う。(田中佐和)

同会は、(1)第二次世界大戦以前に創業(2)当時の建物を維持し営業を続けている(3)文化財や産業遺産などの認定を受けている−ことなどが加盟の条件。現存する日本最古のリゾートホテル「日光金谷ホテル」(栃木県日光市)や、国の登録有形文化財になっている「雲仙観光ホテル」(長崎県雲仙市)などが名を連ねる。

 明治42年に「関西の迎賓館」として創業した奈良ホテルは、東京駅や日本銀行本店などの建築を手がけた辰野金吾による設計。桃山御殿風ヒノキ造りの本館は和洋折衷のクラシカルな雰囲気が漂う。物理学者のアインシュタインが大正11年の滞在時に弾いたピアノなど物語のある館内の調度品も魅力だ。

 横浜に昭和2年に開業したヨーロッパスタイルの「ホテルニューグランド」には終戦直後、連合国軍総司令部(GHQ)の最高司令官、マッカーサー元帥が宿泊した。当時執務室として使われた315号室は「マッカーサーズスイート」として今も残る。

 同会では9ホテルを一体的にPRするため、共通の「クラシックホテルパスポート」を作成。宿泊してホテルごとのスタンプを集めると、食事券やペア宿泊券がプレゼントされる。また各ホテルの名物カクテルなどが味わえる「クラシックカクテルフェア」も9ホテル共通で開催中だ。

 作家でホテルジャーナリストの富田昭次さん(63)は「戦前に創業したホテルは単なる宿泊施設ではなく、世界中の人が離合集散する社交場であり、西洋文化の発信拠点だった」と指摘。「クラシックホテルには歴史空間に身を置くという楽しみがある。各地のクラシックホテルが結束し、外国人客や若い世代に『歴史遺産』としての価値を発信することには大きな意味がある」と強調する。

 奈良ホテル本館は昨年から、創業以来初となる大規模な耐震補強工事を始めている。宮崎好弘社長(61)は「時代に合ったものにしながらも象徴として残すべき部分がある。100年先もご愛顧いただけるように、施設を維持管理するための技術的な面でも、他の8ホテルと情報交換していきたい」と話している。

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