【ニュース解説】働きすぎで「居眠り運転」、会社の責任がより問われる時代に…横浜地裁川崎支部の「画期的」和解を分析

◆働きすぎで「居眠り運転」、会社の責任がより問われる時代に…「画期的」和解を分析

2月8日、横浜地裁川崎支部で「画期的」な和解が成立した。
深夜勤務後の帰宅中にバイク事故で亡くなった会社員の渡辺航太さん(当時24)の遺族が、会社に損害賠償を求めた訴訟の和解のこと。
会社が遺族に謝罪し、約7600万円を支払う内容だ。

渡辺さんは、長時間の深夜労働を終えて横浜市の職場から都内の自宅にバイクで帰る途中の2014年4月24日午前9時過ぎ、電柱にぶつかる単独事故により亡くなった。
母親らが2015年、長時間労働が事故の原因だとして約1億円の損害賠償を求めて訴えを起こしていた。

和解勧告では、通勤中の事故にも企業に安全配慮義務があると認定。
事故の原因は居眠りだったとし、過労状態をわかっていた会社が渡辺さんに対し、公共交通機関を使うよう指示するなどして事故を避けるべきだったと指摘した。

本件の和解については、「画期的だ」と評価する声が続々と上がっている。
労働問題に詳しい波多野進弁護士に、どのような点が画期的で、今後の同種事案にどう影響を与えそうかなどの点について聞いた。

●使用者の責任を前提とした和解

ーー今回の和解はどのような点が画期的でしょうか

「まず、日常的に長時間労働や深夜勤務などによって過労状態や睡眠不足が常態となっている場合には、当該労働者が運転業務に従事していなくても、通勤時の居眠り運転などによる事故はいつ起こってもおかしくない状況です。
このような危険な状態を引き起こしたのは使用者だと考えられ、使用者が責任を負うことはむしろ当然だと言えます。
本訴訟において裁判所は、こうした事実関係と使用者の責任を適切に把握した上で、使用者に責任があることを前提に和解している点が画期的です。
これまでの裁判例を踏まえた適切な内容です」

ーー同種の事案に今後どのような影響を与えそうでしょうか

「そもそも『居眠り運転=運転者の過失』と簡単に片付けられがちであることが問題でした。
私が過労死や過労自殺の労災の相談を受けていても、通勤途上の車や自転車で事故を起こしそうになったとか、事故を起こした(同僚も含む)ということはしばしば聞きます。
こうしたことは決して珍しいことではないというのが実感で、居眠り運転の根本原因が過重業務にあるなら、今後ますます『居眠り運転=使用者の責任』という判断が裁判所から出させる可能性は高まるのではないでしょうか」

●過去には、過労と運転業務の関係が濃い事案で使用者責任を認定

ーー先ほど言及された、これまでの裁判例とはどういったものでしょうか

「長時間労働等の過重業務によって過労運転による居眠り運転事故による死亡について、いくつかの裁判例が既にあります。
たとえば、『御船運輸事件』(大阪高裁平成15年11月27日判決)は、長距離自動車運転手が過重な業務による疲労により、居眠り運転により追突事故を起こし死亡したものです。
『サカイ引越センターなど事件』(大阪地裁平成5年1月28日判決)も運送作業中に交通事故のため死亡した者の遺族が、事故は過労による居眠り運転が原因であるとして、不法行為及び安全配慮義務違反で、勤務していた運送会社に損害賠償を求めたものでした。
それぞれ、裁判所は使用者の責任を認めています。
自動車の運転が業務に欠くことのできないものであり、過労と運転業務との関係が今回の件より鮮明な事案と言えるでしょう」

写真:和解成立後に会見に参加した渡辺航太さんの母・淳子さん
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Yahoo!ニュース(弁護士ドットコム) 2018/2/18(日) 9:35
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180218-00007428-bengocom-soci

※続きます