生徒たちが主体的に考え、話し合う道徳の授業を進めるために、新しい教科書を有効に活用してもらいたい。

 文部科学省は、2019年度から中学校で「特別の教科」になる道徳の教科書の検定結果を公表した。申請した8社の教科書全てが合格した。

 従来の道徳は、学校行事に振り替えられるなど、軽視されがちだった。副読本の読解にとどまっている、との批判もあった。

 合格した各教科書には五輪やパラリンピックの選手、震災の被災者らが困難を乗り越えた実話が目立つ。新聞の投書欄を題材に、様々な意見を載せた教科書もある。生徒の関心を引きつけようと、工夫した跡がうかがえる。

 教科化に伴い、学習指導要領は「考え、議論する道徳」への転換を打ち出している。各教科書は、読み物を基に考えを深めるための問いかけを随所に掲載し、グループ討論を促した。新しい形式の授業を進める手だてとしたい。

 各教科書とも、内容は盛りだくさんだ。1学年で30以上の読み物が収録され、約200ページに及ぶ。年間35回、週に50分の授業で、議論の時間まで確保できるのか。

 学習指導要領は「節度、節制」「思いやり、感謝」などの計22項目を各学年で全て扱うよう求めている。検定でも、各項目の要素が満遍なく盛り込まれているかどうかがチェックされた。形式的に過ぎたとの感は否めない。

 結果として、総花的な内容の教科書が目に付く。文科省の副読本に長年掲載された読み物を多数使用した教科書もある。教材選定に苦労したためではないか。

 教科書の消化に追われるだけでは、教科化の意味がない。教師には、生徒の実情に応じて、教材の取り上げ方にメリハリを付けるなど、授業の工夫が求められる。

 道徳の教科化は、大津市で11年に起きた男子中学生のいじめ自殺がきっかけになった。全ての教科書が、いじめの問題に重点を置いたのは当然だと言える。

 いじめの当事者だけでなく、周囲の生徒の対応が大切なことを強調している。ネット上のトラブルについても手厚く扱っている。教室での話し合いを通じて意識を高め、被害の抑止につなげたい。

 18年度に教科化される小学校と同様に、教師は生徒の評価を数値で示すのではなく、理解の状況などを通知表に記述する。

 話し合いの様子や生徒の感想文を参考に、成長を後押しする視点で評価することが大切である。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180328-OYT1T50119.html