ピアノなどの演奏を学ぶ音楽教室から、日本音楽著作権協会(JASRAC)が楽曲の著作権料を徴収する方針を打ち出しています。教室側は、反対する署名運動をしたり、JASRACを東京地裁に訴えたりと、猛反発しています。練習段階の演奏でも、著作権料を支払わなければならないのでしょうか。専門家にも話を聞き、考えてみます。

 「右手さんでメロディーを追っかけてみましょうか」。横浜市港南区のヤマハ音楽教室。4月上旬、幼児科のレッスンでは、4〜5歳児9人が鍵盤が2段の電子オルガンを使って、サン・サーンスなどのクラシック曲や童謡を練習していました。

 この日はたまたま著作権が切れた曲だけでしたが、教室全体では流行歌など著作権がある曲を演奏するケースは少なくないといいます。

 教室を運営するフレンド楽器の大場基之会長は「著作権料を払うには月謝の値上げを検討せざるをえません。我々は音楽が好きな子どもを増やし、音楽市場を広げているのに……」と話します。

 JASRACが徴収の根拠にしているのは著作権法の「演奏権」。22条で「公衆に直接聞かせることを目的に演奏する権利」と定められています。入場料を取るコンサートが代表的なケースです。ただし、音楽教室での演奏がこの権利の対象といえるかどうかは、裁判例がなく、法的にはまだ答えが出ていません。

 音楽教室側は「先生の演奏は楽器の弾き方のお手本を示すため、生徒の演奏は技術をチェックしてもらうためで、公衆に聞かせることを目的とする『演奏権』は及ばない」と主張しています。

 この日、指導していた先生(35)も「演奏会みたいに『曲をじっと聴きましょう』といって私が弾くわけではありません。教室の子どもたちが『公衆』というのはとても違和感があります」と話しました。母親の一人も「古い曲しか練習しない、ということになれば、子どものやる気が下がって音楽の喜びを感じられなくなるのでは」と心配します。

ビジネス目的なら当然

 JASRACは、今月1日利用分から徴収するとして、全国の約900事業者(計約7300教室)に契約を求める文書を送りました。JASRAC広報部によると、すでに十数社が契約を結んだといいます。

 音楽教室側は昨年6月、JASRACを提訴。50万人を超える反対署名を文化庁に提出しました。裁判が続いていますが、演奏権をめぐる裁判で勝訴を重ねてきたJASRACは法解釈に自信を持っています。ダンス教室とのCD演奏をめぐる裁判では「生徒という公衆に聞かせる目的の演奏」というJASRACの主張が認められました。カルチャーセンターの楽器教室からは既に徴収しており、「外堀は埋めた」という手応えもあるようです。

 JASRACは、楽曲が「商業利用」される場合は著作権料の徴収の対象になるとして、結婚披露宴や葬儀でも、式典を担う業者が楽曲を使う場合は著作権料を徴収してきました。今回も、営利目的の音楽教室と非営利事業の小中学校などとの間に線を引き、「ビジネス目的である以上、電気代や水道代を支払うように音楽の使用料を支払っていただくのは当然」と主張しています。

 ただ、近所の子どもを集めた小規模なピアノ教室については「当面は徴収対象としない」としています。

文化庁 徴収認める裁定

 著作権をめぐる法令は文化庁が所管しています。そこで音楽教室側は、判決確定まではJASRACに徴収させないでほしいと、文化庁長官の裁定を申請しました。著作権等管理事業法に基づくもので、申請は史上初めての事態でした。

 ただ、同法は「届け出制」を基本とした法律で、文化庁がJASRACを監督する力は弱いのが現状です。文化庁は、専門家でつくる文化審議会に諮問しましたが、審議会は「著作権が及ぶか否かの判断に立ち入ることはできず、JASRACに徴収を保留させることはできない」と答申。これを受けて、文化庁は徴収の留保でなく、徴収開始を認めるという長官裁定を出しました。
https://www.asahicom.jp/articles/images/AS20180419004098_comm.jpg
https://www.asahi.com/articles/ASL4K6H8GL4KUCLV00Q.html
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