https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180605-00010000-nishinp-soci

「私が暮らす自治体の指定ごみ袋は、名前を書かなければいけないんです」。
福岡県うきは市に住む女性(61)から、西日本新聞の特命取材班に戸惑う声が寄せられた。
さまざまな個人情報を含む家庭ごみ。誰に見られるか分からず、記名に抵抗があるという。
確かに、ストーカーがごみを持ち去る例もある。わざわざ書くなんて…。取材を進めると、
マナー違反に苦慮する自治体の姿が見えてきた。

うきは市役所で指定ごみ袋を見せてもらった。家庭用の燃えるごみ袋は半透明の青色。
中央に大きく記名欄があり「お名前は必ずご記入ください」の文字がある。
「記名は強制ではなく、あくまでお願いですよ」。市民生活課の寺嶋克史係長が説明する。

「分別のルールを守っていれば回収します」

市は2005年3月、旧吉井、浮羽両町が合併して発足。詳しい時期は不明だが、浮羽町は以前から
記名式のごみ袋を使っていたという。合併前の04年9月、燃えるごみを固形燃料材(RDF)に変える施設
「耳納クリーンステーション」が吉井町で稼働。これを機に、吉井町域も含む新市全域を記名式にした。

収集場所に無記名のごみ袋があっても「分別のルールを守っていれば回収します」。
作業員が袋の重さや手触りから判断し、適正なら記名の有無にかかわらず回収する。
一方、燃えるごみ袋に不燃物が入っていれば「×」印のシールを貼って収集場所に残し、分別を徹底するよう注意する。
無記名なら職員がごみ袋を開ける「開封調査」を実施。郵便物などから特定し、手紙を送って分別の徹底をお願いする、という。

金属の塊が混入、破砕機が破損する事故も

「記名式でごみ出しに責任を持ってもらえば違反の抑止にもなる」。そう寺嶋係長は強調する。背景には度重なる苦い経験がある。

クリーンステーションではRDFを成型する過程で可燃物のごみを破砕する。この破砕機に金属の塊が混入し
刃が破損する事故が過去12回発生。刃の交換など毎回約50万円の費用がかかり、そのたびに稼働停止を余儀なくされた。
「破砕機は一系統だけ。金属の混入は致命的です」と職員の安元貴昭さん(42)は語る。

記名式や開封調査を採用する自治体は全国で増えている。佐賀県武雄市、熊本県長洲町、福岡県大野城市の一部地区なども記名式。
開封調査は熊本市や北九州市が導入している。

マナー違反対策「最終手段」の開封調査

実際、マナー向上につながるのか。15年10月に分別を義務付ける条例を施行した京都市に聞くと「収集場所にごみが散乱せず、マナーが良くなった」。
指定のごみ袋は記名式ではないものの、マナー違反対策の「最終手段」として開封調査を導入。プラスチックごみ分別率は14年度の37%から、
施行後の16年度には42%に改善したという。

「まだ十分な数値とは言えないが、分別の意識は少しずつ高まっている」。担当者は手応えを口にする。

「ストーカーを誘発する恐れも」弁護士は警告

とはいえ、記名や開封調査にはプライバシーの面で不安も根強い。個人情報保護に詳しい板倉陽一郎弁護士は
「相当の理由がなければ、ごみ袋の開封は究極のプライバシー侵害になりかねない。記名式はストーカーを誘発する恐れもある」と警告する。

関西学院大の野波寛教授(環境社会心理学)は「開封調査に携わる職員がプライバシーを悪用した際の罰則を自発的に設けたり、
ストーカー被害を防ぐため警察との連携を表明したりして、住民の不安を和らげる取り組みも必要だ」と話した。