熊本市動植物園(東区健軍)で6〜7月にかけ、5匹いるキンシコウのうち親子3匹が相次いで死んだ。孫悟空のモデルと言われ、国内では同園だけが飼育する“看板スター”の連続死。園は残る2匹の管理に万全を期する一方で、キンシコウ同士の交換による繁殖も模索している。

 同園によると、6月22日にシンシン(雄21歳)が胃の不調による栄養摂取障害で急死。同27日には父パオパオ(雄29歳)、7月16日には母ヘンヘン(雌27歳)が続いた。両親は人間で言えば約80〜90歳の高齢で、老衰とみられるという。

 同園は、解剖などの結果から食中毒や感染症を否定する。飼育担当の井手眞司さん(55)と松本浩二さん(51)は「キンシコウの平均寿命は25年。パオパオはここ数年、体調を崩しがちだった」と話す。

 1カ月の間に、死が相次いだのはなぜか。東海大農学部の伊藤秀一教授(動物行動学)は「大人になれば雄同士に親子という情はなく、子どもの死にショックを受けたとは考えられない。加齢に加え、環境の変化によるストレスが引き金になった可能性もある」と指摘する。

 5匹は5月28日、住まいを約30メートル東の猛獣舎に移していた。熊本地震で傾いたキンシコウ舎の修復のためで、同園は「工事には大きな音が伴う。ストレスを与えないための配慮だった」と話す。

 5匹は移動直後、食欲が落ちたという。井手さんらは「猛獣舎はキンシコウ舎に比べると狭く、日当たりも良すぎる。住み慣れた場所から移したのが逆にストレスになったのかもしれない」「地震の影響がこんなところに出るとは」と悔やむ。

 園は工事を先送りし、16日午後に残るフェイフェイ(雄19歳)とヨウヨウ(雌14歳)を元の住まいに戻した。兄妹での交配を防ぐため、仕切りのあるおりで生活する。「いつもヘンヘンに抱かれていたヨウヨウは初めての“一人暮らし”で不安なのか、聞いたことのない鳴き声を出している」と松本さん。4人一組の飼育班で注意深く経過を見守る。

 同園でキンシコウが飼育されるきっかけは1989年、熊本市制100周年記念事業だった。中国・上海動物園から借りた、つがいを3カ月間展示すると、「入園者は200万人超。大フィーバーだった」と当時、飼育担当だった動物資料館長の松崎正吉さん(62)。

 93年、学術研究目的での長期借用が決まり、西安動物園からパオパオとベイベイ(3年後に返還)が来園した。後に来たヘンヘンとは「甘えた声で呼び合って愛らしかった。子どもも産んでくれて、感謝しかない」という。

 キンシコウは絶滅危惧種で、「日本での飼育はここだけ。責任も感じている」と同園。昨年10月、友好都市の中国・蘇州国家高新区に出向き、個体交換による繁殖に向けた協議を申し出たばかりだった。3匹が死に、事態はより深刻になったが、今後の見通しは立っていない。

 岡崎伸一園長は「中国でも動物園が入手するのに2年かかったと聞く。キンシコウを熊本に残すために努力したい」と話している。(熊本総局・高橋俊啓、木村恭士)

熊本市動植物園の南門に設置された献花台。パオパオ、シンシンの写真も飾られていた
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シンシン 6月22日没(雄21歳)
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パオパオ 6月27日没(雄29歳)、
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ヘンヘン(雌27歳) 7月16日没
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2018/7/22 10:30
(2018年7月22日付 熊本日日新聞朝刊掲載)
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