http://www.afpbb.com/articles/-/3190783?cx_part=latest

遺伝子操作でマラリア蚊対策、個体群を全滅 英研究
2018年9月25日 11:47 
発信地:パリ/フランス [ フランス ヨーロッパ ]

【9月25日 AFP】生物を死滅に導くようにプログラムする遺伝子編集ツールを用いて、マラリア媒介蚊の個体群を全滅させることに室内実験で初めて成功した。研究論文が24日、発表された。

 実験で用いられたのは、いわゆる「遺伝子ドライブ」と呼ばれる技術で、遺伝子操作で作製した形態的特徴が自然発生よりも高い割合で子孫に何世代にもわたって継承されるように、進化を強制的に導くことで機能する。

 英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)の研究チームは、マラリア媒介蚊のガンビアハマダラカ(学名:Anopheles gambiae)を用いた実験で、「doublesex」として知られる遺伝子を操作し、世代を追うごとに吸血や繁殖が不可能な雌の増加を目指した。


 その結果、わずか8世代を重ねた後に雌がいなくなり、子孫を残せなくなったために個体群が崩壊した。

 論文の主執筆者で、インペリアル・カレッジ・ロンドン生命科学部のアンドレア・クリサンティ(Andrea Crisanti)教授は、「遺伝子ドライブが目的通りに機能し、何世紀にもわたって人類を苦しめてきた病気との闘いに希望を与える可能性があることを、今回の革新的な研究結果は示している」と述べた。

 2016年のマラリアの感染者数は世界で2億人以上、死者は45万人近くに上った。マラリアは依然として最も致死率の高い感染症の一つとなっている。

 遺伝子にプログラムした蚊の死滅を実験室内で誘発する試みは、同研究チームや他のグループによって過去にも行われていたが、これまでは突然変異という形の「抵抗」に遭っていた。

 研究の次段階では、熱帯環境を再現した閉鎖的な実験室の環境で、この遺伝子ドライブ技術を試験する予定だと、クリサンティ教授は話す。その一方で、「遺伝子ドライブを施した蚊を使った自然環境での試験を検討するのは、少なくとも5〜10年先になる見通しだ」とも指摘している。

 今回の実験でターゲットとしたdoublesex遺伝子は、根強く「保存」されている。これは数千万年あるいは数億年も前に形成された遺伝子が今日多くの昆虫によって共有され、ごくわずかな差異しか認められないことを意味する。

「このことは、病気を媒介する他の昆虫を特異的に標的とする上で、同技術を将来的に利用できる可能性があることを示唆している」と、研究チームは指摘した。

■研究凍結の訴え

 一方、一部の科学者と技術監視団体は、遺伝子ドライブ研究の凍結を求めている。

 最新の技術は、規制の枠組みが追いつかないほどの急成長を示すことが多い。こうした技術を監視する非営利団体「ETCグループ(ETC Group)」のジム・トムソン(Jim Thomson)氏は、「遺伝子ドライブを用いて生物種と自然個体群を意のままに全滅させる能力に対しては称賛を送るべきではなく、むしろ警鐘を鳴らすべきだ」と述べた。

「自然個体群を操作・除去することは、食物網の破壊や疾病の作用変化などの生態学的リスクが伴うとともに、農業の混乱や新たな武器の開発といった社会的リスクももたらす」

 英科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」で発表された今回の最新研究は、米慈善財団「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)」から資金提供を受けた。同財団は、主に研究コンソーシアム「ターゲットマラリア(Target Malaria)」を通じて、病気根絶を目的とする遺伝子ドライブ技術の開発に1億ドル(約112億円)近くを投じている。

 他方で、米国防総省の研究機関である米国防高等研究計画局(DARPA)も、数千万ドル(数十億円)を出資している。(c)AFP/Marlowe HOOD