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シリアで拘束・解放の安田純平さん、喜びの帰国 ネットでは誹謗中傷も
2018年10月28日 16:53 
発信地:東京 [ シリア イラク 中東・北アフリカ 日本 アジア・オセアニア ]

【10月28日 AFP】内戦下のシリアで2015年に拘束され、先日解放されたフリージャーナリストの安田純平(Jumpei Yasuda)さんは25日夜に無事帰国し、喜びに沸く親族や支援者らの歓迎を受けた。拘束されていた3年余りを「地獄」だったと振り返る安田さんは、妻や両親との再会を果たした。

 ただ、海外で人質になった安田さんのような日本人は、紛争地域に渡航する捨て身の行動で厳しい批判にさらされる。安田さんは帰国前からインターネットなどで、無謀さに対する非難から日本人ではないとの言いがかりまで、怒りに満ちたさまざまな誹謗中傷を浴びせられている。ツイッターでは世間に迷惑をかけているとの投稿や、安田さんを「非国民」と非難するつぶやきもみられる。

 安田さんはイラク戦争などに関する本を執筆し、日本のテレビで報道が取り上げられたこともある。今回安田さんに向けられている反発は、人質となっていた記者が解放された際の他の国々の受け止め方とは大きく異なる。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に拘束されたフランス人記者4人が解放された時には、当時のフランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領が帰国した4人を出迎えた。

■自己責任論

 ただ、日本では解放された人質について賛否両論が出ることが多く、拘束されたのは自己責任だとする批判も珍しくない。上智大学(Sophia University)の寺田俊郎(Toshiro Terada)教授(哲学)は、人質は被害者であり法律に違反していないのに謝罪を求められるのは奇妙なことであるものの、それが日本社会の一部のものの考え方だと指摘し、安田さんは社会に迷惑をかけたとして非難されているとの見方を示した。

 人質に対する反応の衝撃的な一例を挙げると、2004年にイラクで現地の武装集団の人質となり、その後解放された日本人3人は、帰国直後から自己責任論にさらされた。武装集団はイラクに派遣された自衛隊の非戦闘部隊の撤退を要求し、これに応じなければ3人を殺害すると警告した。

 しかし当時の小泉純一郎(Junichiro Koizumi)首相は要求に応じず、人質の家族との面会も断り、強硬な姿勢が日本社会の一部で称賛された。右派メディアに支持された日本政府も、当時戦闘地域だったイラクに渡航自粛勧告を無視して入国した3人を無責任な若者たちと捉えた。

 3人の一人である今井紀明(Noriaki Imai)さんは最近、「死ね」や「ばか」などと書かれている手紙を数通受け取った。今井さんによると、ネット上でのバッシングは10年続いたという。

■「プロ人質」

 安田さんは04年にイラクで拘束された経験もあるため、一部で「プロ人質」の異名を取った。また、7月末にネット上で公開された動画が一因で、安田さんが日本人ではないとの中傷も出た。

 動画で安田さんは日本語で話しているものの、自身を「ウマル」と名乗り、国籍は「韓国人」だと主張した。犯行グループが安田さんに対し、本名や日本人であることを明らかにしないよう要求したためとみられるが、ツイッター上には安田さんが「韓国に帰るべきだ」とするつぶやきが投稿された。

 内戦状態のシリアで起きた一連の記者拉致事件は、各国の政府や世論の反応の違いを浮き彫りにした。身代金の支払いに応じる国もあれば拒否する国もある。解放された記者を英雄として称賛する国もあれば、不必要なリスクを冒したとしてひそかに批判する国もある。

 日本の主流メディアや政府関係者は、安田さんやその他の人質となった人たちを表立って批判することをおおむね避けている。ただ、ネット上で誹謗中傷が広がっている状況について、テレビ朝日(TV Asahi)解説委員の玉川徹(Toru Tamakawa)氏は、安田さんの事例に関して「自己責任論というのを僕は否定しておきたい」と明言し、命懸けで情報を取ってくるジャーナリストが必要だと強調した。(c)AFP/Karyn NISHIMURA-POUPEE