https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/120300527/
 東南アジア、マレー半島の東30キロの沖合に浮かぶティオマン島は、熱帯雨林に覆われた小さな島。
陸上を歩くナマズや空を飛ぶヒヨケザルなど、たくさんの珍しい動物が暮らしているが、つい最近も奇妙な行動をする動物が見つかった。
昼間に狩りをするコウモリだ。

 世界を見渡すと、ほぼすべてのコウモリが夜に狩りをする。
ところがティオマン島では、数匹のブライスキクガシラコウモリが真昼に昆虫を追いかけて飛ぶ姿が、連日観察されたのだ。
「とりわけ興味深い、ありえない行動です」と、2018年2月、学術誌「Mammalia」にこのコウモリの昼間の狩りについての論文を発表した、
米ジョージ・メイソン大学の大学院生マーカス・チュア氏は言う。

 昼間に活動するコウモリが見つかったのは、これが初めてではない。ほかにも昼行性コウモリについて3つの例が報告されているが、
いずれもコウモリたちが暮らすのは“島”だ。この共通点を、科学者は見逃さなかった。
それどころか、進化における大いなる謎を解く手がかりととらえた。なぜコウモリは夜行性になったのかという謎だ。

■鳥に追われて夜行性に?
 地球上に生息するコウモリは、およそ1400種。果物や花の蜜、虫、そしてときにカエルを食べるが、ほぼ例外なく夜間に狩りをする。
40年以上前から提唱されている一つの仮説は、「コウモリは鳥に追われて夜行性になった」というもの。
ツバメのように、コウモリと同じ獲物(昆虫など)を食べる鳥たちに追いやられる、あるいはタカやハヤブサなど、
コウモリを捕食する鳥に追いやられることで、コウモリが今日の姿に進化した5400万年前には、すでに夜行性になっていたとする仮説だ。
もう一つ、「コウモリが熱に弱いため夜行性になった」とする説もある。
黒くて薄い翼が太陽光線を吸収しやすく、昼間に外にいると高温になり過ぎる恐れがあるというものだ。

 英アバディーン大学の動物学者ジョン・スピークマン氏は、約30年前にコウモリの夜行性に関する研究を始めた。
同氏はこれらの仮説を検証するため、コウモリの天敵がいない、コウモリと獲物が競合する動物がいない、あるいはその両方がいない島を探した。
そして、ポルトガルの西の沖にあるサン・ミゲル島を研究場所に選んだ。
この島には昆虫を食べるコウモリ、アゾレスヤマコウモリが生息し、昼間に飛ぶ姿がよく見られることが知られていた。
また、同島には競合したり天敵となる鳥がほとんどいないので、最初に調査する場所に適していると思われた。

「コウモリが夜行性である理由を理解しようとするには、昼行性のコウモリを観察して、何をしているのか、何が起こっているのかを
知る必要があると考えたのです」とスピークマン氏は話す。
同氏の研究チームはサン・ミゲル島を訪れるとすぐに、日中に飛んでいるコウモリを実際に見つけたと言う。

■「例外」が仮説を支える
 それぞれの仮説は、ほかのいくつかの島々でも検証された。
1995年、スピークマン氏は高温説を検証するために、学生をサモアに派遣、気温が上昇する日中に活動する固有種
サモアオオコウモリを調査した。
サモアオオコウモリが果物を食べに現れる時間と島の1年間の気象の変化を比較したところ、サモアオオコウモリは、
最も暑い時間を必ず避けていたが、日射しのある中でも現れることが頻繁にあったとスピークマン氏は言う。
このことから、コウモリが高温を避けて夜行性になったという仮説は正しくない可能性が考えられた。

 一方、捕食者か競合者、またはその両方がいない場合、コウモリは昼間に活動することができる。
これは、昆虫を食べるコウモリにとって特に理想的なケースだ。昆虫は、日中の方が100倍近くも多いからだ。
「これがまさに、いくつかの島で起きている状況です」
とこの研究に後から加わったイタリア、フェデリコ2世ナポリ大学の動物生態学者ダニロ・ルッソ氏は話す。

 2009年〜2010年、同氏の研究チームはガボンのすぐ西に浮かぶサントメ島を訪れた。
同島に生息するノアックカグラコウモリの活動を記録することが目的だ。
この島には肉食の鳥がいないため、コウモリが日中に現れるのではないかと考えられたからだ。
予想通り、ノアックカグラコウモリは決まって午前9時から午後3時か4時ごろまで狩りをすることがわかった。

「昼行性のコウモリという例外が、コウモリは敵を避けて夜行性になったとする仮説を支持しているのです」とルッソ氏は言う。

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