「17年3月期と18年3月期の有価証券報告書の提出義務を負うのは、CEOの西川氏。しかも、西川氏は、退任後の報酬についての合意文書に署名もしているとのことで、有価証券報告書に真実を記載するという
義務に反したのは西川氏ということになる。今回の虚偽記載を犯罪として立件すべきだと特捜部が考えているなら、西川氏を刑事立件しない理由はありません。事実を認めているから逮捕しないとしても、
在宅起訴は避けられないでしょう」

 それが、今回の事件では司法取引が行われたことで摩訶不思議なことがまかり通った。司法取引の影響があったかは不明だが、ゴーン氏とケリー氏以外で起訴されたのは、法人としての日産だけだった。

 前出の亀井氏は、国会議員になる前の警察時代に組織犯罪を扱う捜査2課にいたこともある。その経験から、司法取引の危険性も熟知している。

「私も捜査2課時代に誤認逮捕しそうになったことが何度もある。なぜかというと、人間は他人のことなら平気でウソを言う。みんなウソっぱちを言うから、捜査が間違った方向に進む。司法取引の最大の怖さは、
えん罪を生むこと。あるいは、謀略によって他人をおとしいれることができる。殺人とは違って経済犯罪は物証が少ない。経済犯罪での司法取引は、特に問題がある」

 ゴーン氏が無罪になったらどうなるのか。今年6月に新たに導入された日本型司法取引をフル活用してまで捜査に失敗したとなれば、世界から日本の司法制度への批判が高まることは間違いない。特捜部だけ
ではなく、混乱を招いた日産経営陣の責任も厳しく問われることになるだろう。その時、西川氏は現代の明智光秀になる。(AERA dot.編集部・西岡千史)