「組織の論理」によるゴーン氏起訴と「法相指揮権」〜最終責任は安倍内閣にある(郷原信郎が斬る)
https://getnews.jp/archives/2102906

東京地検特捜部が、日産・ルノー・三菱自動車の会長カルロス・ゴーン氏を逮捕した事件、逮捕の容疑事実については、検察当局は逮捕直後に「2015年3月期までの5年間で、実際にはゴーン会長の役員報酬が
計約99億9800万円だったのに、有価証券報告書には合計約49億8700万円だったと虚偽の記載をして提出した金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)」と発表しただけで、それ以外に正式な発表は
全くなかった。何が逮捕事実なのかについて、確かな情報もないまま、断片的な情報や憶測が錯綜し、報道は迷走を続けた。しかし、11月24日に、「退任後にコンサルタント料等の別の名目で支払うことを
合意した報酬」だと報じられ、その後、ケリー氏が、「退任後の報酬は正式に決まっていたものではなく、有価証券報告書に記載する必要はなかった」と主張して容疑を否認していることが報じられたこと
などから、逮捕容疑が、実際に受領した報酬ではなく「退任後の役員報酬の支払の合意を有価証券報告書に記載しなかった事実」であることは、ほぼ疑いの余地のないものとなった。

このような「退任後の報酬」について虚偽記載の犯罪が成立するのか、マスコミからも疑問視する見方が示されているが(【ゴーン氏事件 検察を見放し始めた読売、なおもしがみつく朝日】*1 )、検察は、
意に介さず勾留延長請求を行い、10日間の延長が認められた。12月10日の延長満期に向けて、検察が本当にゴーン氏を起訴するのかどうかに注目が集まる。
*1:「ゴーン氏事件 検察を見放し始めた読売、なおもしがみつく朝日」2018年11月27日『Yahoo!ニュース』
https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20181127-00105589/

上記記事等でも述べたように、逮捕容疑からは、検察官が、本当にゴーン氏を起訴できるのか疑問だ。しかし、検察は、独自の判断で、国際的に活躍する経営者のゴーン氏をいきなり逮捕し、日本国内だけ
ではなく国際社会にも重大な影響を与えたのであり、もし、ゴーン氏が不起訴となった場合は、国内外から激しい批判・非難を受け、検察幹部は重大な責任を問われることになる。「組織の論理」からは、
検察が独自の判断で行ったゴーン氏逮捕を自ら否定するような不起訴の判断を行うことは考えにくい。

検察のゴーン氏処分に関しては、逮捕容疑の内容からすると「起訴は考えにくい」が、検察の「組織の論理」からは「不起訴は考えにくい」という2つの見方が交錯することになる。

日本の検察制度と特捜部の「検察独自捜査」
そこで、まず、日本の検察制度、組織の特性など、検察独自捜査事件での処分の刑事司法的背景の面から、なぜ「組織の論理」としてゴーン氏の不起訴が考えにくいのかについて述べる。

日本の検察官は、刑事事件について起訴する権限を独占している。その検察官の事務を総括するのが「検察庁」である。検察庁は法務省に属する行政組織であるが、職権行使の独立性が尊重され、法務大臣が
検事総長に対して指揮権を行使する場合(検察庁法14条但書)以外には、外部からの干渉を一切受けず、起訴・不起訴の理由について説明責任を負わず、情報開示の義務もない。

そして、日本の刑事裁判所は、有罪率99.9%という数字が示すように、著しく検察寄りであり、殆どの事件で、検察が起訴すればほぼ確実に有罪になる。検察の判断が、最終的な司法判断となるといってもいい。

日本では、犯人を検挙し、逮捕するのは、原則として警察であり、捜査段階での検察官の役割は、警察が検挙した事件や犯人の送致を受けて、捜査の適法性や証拠を評価し、身柄拘束の要否を判断すること、
起訴・不起訴を決定することであり、基本的には「客観的な判断者」の立場だ。

しかし、例外的に、検察官が独自に捜査をして、被疑者の逮捕・捜索から起訴までの手続きをすべて行うことがある。それを「検察独自捜査」と呼ぶ。それを行うための組織として、東京、大阪、名古屋の
3地検に、特別捜査部(特捜部)が置かれている。

検察独自捜査においては、犯罪の端緒の把握、逮捕など、一般の事件の警察の役割を、すべて検察官とその補助者の検察事務官が行う。検察官は、刑事事件として立件するか否かを判断し、自ら裁判所に
令状を請求して逮捕・捜索等の強制捜査を行い、取調べを行った上、その事件の起訴・不起訴を決定する。つまり、検察独自捜査の場合は、捜査から起訴までのすべての判断を検察官だけで行うことができる。