古賀茂明「安倍首相は官民ファンドを即刻全廃すべきだ」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181209-00000007-sasahi-pol

 会計検査院も財務省も官民ファンドは問題だというが、ちょっと意味が違う。

 「経産相と次官 給与返納 産業革新投資機構の報酬問題」。
 12月4日付朝日新聞夕刊1面記事の見出しだ。大臣と次官が給与返納というのだから、どんな不祥事があったのかと思うだろう。これは、世耕弘成経済産業相の「より大きな責任逃れのために小さな責任をとる」という高度な
パフォーマンスなのだが、その点はさておき、この件は、最近よく話題に上る官民ファンドの問題点を象徴的に示す事例だ。

 官民ファンドとは、政府と民間が共同出資して、ベンチャーの起業、高度な研究開発、地域経済の振興、日本文化の海外への発信、農林水産業の振興など様々な政策目的のために投資する基金のことだ。安倍政権になって
雨後のたけのこのように増殖し、現在は14もの官民ファンドが活動中だ。それぞれが掲げる目的は、一見異なるが、実際には重複している。14のファンドへの、政府の出資や融資は18年3月時点で計8567億円、ファンドが
資金調達するうえで政府が元本の返済や利子の支払いを保証した金額は計3兆円近くにもなるそうだが、有望な投資先を見出せず、集めたお金を眠らせていたり、赤字決算になっているケースが多発している。しかも、
個別案件の情報開示がほとんどなく、今後どうなるのか非常に不安なファンドばかりだ。

 さらに、官民ファンドは、各省庁からの現役出向などの受け皿にもなっているので、役所にちゃんとやれと言っても、簡単には進まない。こうした事態に対して、会計検査院は、使えない資金の返還や情報開示の徹底などを
求めているが、はっきり言って、真面目に対応しているファンドはない。

 官民ファンドの問題事例はたくさんあるが、いくつか紹介してみよう。
経産省が日本文化の海外輸出支援のために鳴り物入りでスタートさせた「クールジャパン機構(CJ機構)」という官民ファンドの名前は聞いたことがある人も多いだろう。ここは、1910億円の投資計画を策定したものの、
実際の投資額は399億円どまりで、しかも、98億円の累積赤字を抱えてしまった。

 この機構が投資した個別案件で有名な例としては、三越伊勢丹ホールディングスとの共同出資で2016年10月にオープンした「イセタン・ザ・ジャパン・ストア・クアラルンプール」がある。スタート時には、新聞・テレビ
でも大きく報じられた。しかし、この案件は、開業から不振続きで、結局、CJ機構は18年6月に株式を売却して撤退した。

 同じくCJ機構が投資したバンダイナムコホールディングスなどが設立したアニメ配信会社アニメコンソーシアムジャパン(ACJ)も大々的に宣伝されたが、失敗して撤退。

 13年設立の農林水産省所管の官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」(A―FIVE)には、政府が300億円を出資したが、18年3月までの投資額はたったの98億円で含み損は10億円。これに対して役職員約50人の人件費を
含む運営経費が何と40億円超だというから、開いた口が塞がらない。

 15年設立の総務省所管の「海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)」も、投資実績がたったの4件。昨年3月に話題になったプラスワン・マーケティング(格安スマホ事業)のアジア進出支援を目的にした13億円の出融資は、
1年もたたないうちに同社が破綻して、海の藻屑と消えた。

 国土交通省所管の「海外交通・都市開発事業支援機構」も、4179億円と巨額の投資計画に対して、実績はわずか263億円で、しかも、累積赤字は46億円。

 こうした事態に対して、マスコミの批判記事も増えた。各省庁への批判ももちろんだが、政府出資の総元締である財務省への批判も強い。それを恐れたのか、18年11月10日付の日本経済新聞に、財務省が、官民ファンドの
管理強化に乗り出すという記事が出た。具体的に何をするのかは不明だが、その趣旨は、せっかくお金があるのだから、もう少しちゃんと投資しろという方向を向いているようだ。官民ファンドの体たらくを見れば、財務省が
官民ファンドの経営をテコ入れするのは、確かに当然のことだと思う人もいるだろう。