ゴーン逮捕に関係が? 産業革新投資機構社長が取締役8人を引き連れ辞任 その裏にある“思惑”〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181214-00000075-sasahi-ind

 高額報酬問題が民間経営陣の一斉退陣へと発展した産業革新投資機構。背景に、田中正明社長を排除したい霞が関の思惑があったと指摘されている。

「日本は法治国家ではない」
 12月10日、産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長は記者会見でこう言い放ち、自らを含む民間出身の取締役9人全員の辞任を発表した。高額報酬問題を端緒に、所管する経済産業省と
対立してきたJICは、経営陣が一斉に退陣するという異常事態となった。

 田中氏は三菱UFJフィナンシャル・グループの元副社長だ。東大法学部を卒業後、1977年に三菱銀行(当時)に入行。岸暁・元頭取が全国銀行協会会長を務めた際、エリートの登竜門と
される企画部別室長に抜擢され、将来の頭取候補として名前が知れ渡った。だが、行内では傲慢で部下に厳しい人物として知られ、歯に衣着せぬ物言いから敵も多かった。三菱UFJ関係者は
「重用した岸氏も最後は厄介者扱いしていた」と言う。

 結局、2期後輩の小山田隆氏との頭取レースに敗退。上級顧問に退き、16年6月に銀行を去った。旧三菱銀行の頭取経験者らが居並び、経営に強い影響力を持つとされる「相談役会」で
芳しい評価が得られなかったためとも言われる。

 ただ、実力は折り紙付きだ。平野信行・現三菱UFJFG社長と共に米金融大手モルガン・スタンレーへの1兆円出資を手掛けるなど、剛腕バンカーとして鳴らした。米金融当局に顔が利き、
英語が堪能な田中氏を平野氏は高く評価し、一時は「盟友」と周囲に語っていたほど。04年に三菱自動車が大規模リコールにより経営危機に陥った際、ファンドから出資を仰ぐスキームを
考案したのも田中氏だ。リーマン・ショック直後の08年には、米国の中核銀行「ユニオンバンク」立て直しのためにトップとして派遣された。

「現地スタッフの人心を掌握し、同行を全米トップテンの銀行にすると豪語して喝采を浴びた」(三菱UFJ関係者)

 その田中氏を高く買っていたのが金融庁の森信親・前長官だ。田中氏を同庁参与に招き、「金融モニタリング有識者会議」など三つの審議会の委員に就けた。経産省も「IoT推進ラボ
(IoT支援委員会)」の委員に招いた。

 この官僚人脈が、その後のJIC社長へとつながっていく。

「田中氏をJIC社長に推薦したのは、金融庁の森長官と、田中氏と同じ金融庁参与を務めた経営共創基盤代表の冨山和彦氏でした」
 金融庁関係者はこう語る。経産省や金融庁に顔が利き官邸にも近い冨山氏は、田中氏と同時にJICの社外取締役に就いた(今回の退陣劇で辞任)。

 ただ、田中氏が9月25日に開いたJIC社長就任会見で、早くも歯車が狂い始める。

「(JICは)ゾンビ企業の延命のための投資はやらない」

 田中氏の発言を聞いた関係省庁の幹部は、筆者にこう語った。

「ゾンビ企業とはJICに抱えさせるクールジャパン機構を想定しているようで、不愉快だ」

 経産省が所管するクールジャパン機構は、日本の魅力を訪日客増につなげるビジネスなどに投資する官民ファンドだったが、収益が上がらず損失を抱えている。田中氏の「ゾンビ発言」
は、このクールジャパン機構をJICに統合することに異を訴えたと受け止められた。

 一方、永田町周辺では別の見方もある。日産のカルロス・ゴーン前会長の逮捕に絡んだ、経産省の“思惑”があるのではないかとささやかれている。

「経産省は、ゴーン問題でもめている日産・ルノーの資本関係について、日産がルノー株を買い増し、議決権を持つためにJICの資金を活用するのではないか」(永田町関係者)
 この投資を実現させるためには、純粋な投資戦略を主張する田中氏は邪魔だったのか。単なる「人事劇」を超えた綱引きがあった可能性は捨てきれない。(ジャーナリスト・森岡英樹)

※AERA 2018年12月24日号