日産・ゴーン前会長の身柄拘束は不当?特別背任罪は遠く、暗雲漂う捜査〈週刊朝日〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181214-00000078-sasahi-soci

 電撃の逮捕から1カ月、検察は行き詰まったのか。
 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)は捜査の入り口に過ぎず、あくまで本丸は特別背任―。関係者の多くはそんな予測を立てながら、
東京地検特捜部の捜査を見守っていたにちがいない。

 だが、ふたを開けてみれば、12月10日の再逮捕容疑は1回目と同じ金商法違反だった。

 ゴーン氏とグレッグ・ケリー前代表取締役が共謀して、15〜17年度の役員報酬を約43億円も有価証券報告書(以下、有報)に過少に記載していたというもの。これで10〜17年度の虚偽記載容疑の総額は、
90億円を超える。同時に検察は2人を金商法違反の罪で起訴した。

「特別背任などが立件できるのであれば、それで再逮捕していたはずです。最初から材料などなかったのでしょう」
 元特捜検事の郷原信郎弁護士は、そう突き放す。

「最初の5年分と、今回の直近3年分の虚偽記載は実質的に同じ犯罪です。それを分割して逮捕をくり返し、40日間も勾留することは不当な身柄拘束というほかない。国際的な非難に耐えられないと思います」

 ゴーン氏をめぐっては、リオでコンサルタント会社を経営する姉と実体のない業務契約を結び、約10万ドル(約1100万円)を経費から支出したとして、日産側が提訴している。また、海外に高級住宅を
会社に買わせて、自宅として使用していた疑惑なども取り沙汰された。

 だが、特別背任や横領などの罪に該当する可能性は低いという。青山学院大大学院会計プロフェッション研究科の町田祥弘教授が指摘する。
「特別背任は大変重い罪ですから、立件のハードルを高くしてあるのです。お姉さんへの支出も金額的に大きいとは言えない。経営者が自分の家族をファミリー企業にあてがって、役員報酬を支払っていた
などという話は不適切ですが、珍しくありません。ゴーン氏を逮捕するのなら、他にも多くの経営者を逮捕すべきだということになるでしょう。海外の高級住宅も会社に損害を与えたとまでは言えず、
ゴーン氏の使用実態も調べようがないと思います」

 ゴーン氏は退任後の報酬を記載しなかったことについて「あくまで希望額で、将来の支払額は確定していない」と供述している。公判でも同様の主張をくり返すことになるだろうが、前出の郷原氏はこう語る。
「現実に報酬を受け取っているわけでもない。将来の支払いの合意に過ぎず、犯罪の成立には非常に疑問がある。ゴーンとケリー両氏を罪に問うのなら、同じ代表取締役である西川(広人)社長だけが不問と
いうのは理解できません」

 郷原氏によれば、今回の虚偽記載で罪となるのは「虚偽の記載をすること」ではなく、「虚偽の記載のある報告書を提出すること」。犯罪の主体は有報の提出義務者で、日産の場合は代表取締役CEOだ。
西川氏は17年4月からCEOの任にある。虚偽を記入することじたいが犯罪となる政治資金収支報告書の虚偽記載とは、異なるところだという。

「いずれにしても無理筋の逮捕・起訴であり、裁判所は無罪判決を出さざるを得ないのではないか。そうなれば、検事総長の責任問題に発展するかもしれません」(郷原氏)

 一方、町田教授はゴーン氏が報酬を受け取ることが確定していて、意図的に金額などを隠そうとした証拠などがそろっていれば、有罪になる可能性が高いと見る。有報の経営者報酬欄の虚偽記載は株主の重要な
判断事項になるからだ。だが、仮に有罪判決が出たとしても、執行猶予がつくことが考えられるから、身柄の拘束に対しては疑問を呈する。

「もし今回、グローバル企業のトップを逮捕しておいて、有報の虚偽記載という形式犯だけで終わってしまったら、大問題になるのではないでしょうか。例えば、日産の株が不当に売買される事態が生じるような
緊急性があるとは考えられませんし、証拠もすべて押収済みのはずです。2人とも外国人で国外逃亡の恐れがあると判断したのかもしれませんが、勾留の延長にはやはり疑問が残ります」