2019年1月14日 朝刊

 成田空港を発着する航空機内で、荷棚や座席下の収納スペースの荷物から、現金などを盗まれる被害が相次いでいる。昨年千葉県警が把握した被害は、前年より三件多い二十三件。うち十七件は、国際線の機内で起きた。乗客が寝静まる早朝や夜間に狙われた疑いが強い。県警は各航空会社に警戒を呼び掛けているが、発生場所が日本の航空機か外国の航空機なのか、領空内外かによって捜査権の及ぶ範囲が異なり、摘発のハードルは高い。 (太田理英子)

 県警成田国際空港署によると、昨年の被害のうち、被害品が置かれていた場所は、頭上の荷棚が十五件で、座席下は四件、座席の収納ポケットは一件、残り三件は不明だった。大半が現金で、財布から抜き取られることが多いという。

 荷棚には複数の乗客の荷物が置かれ、誰が出し入れしても不自然でなく、座席から見えにくいことも背景にあるとみられる。

 発生時刻は早朝や夜間など乗客の就寝時間に集中しており、客室乗務員らの目が届きにくい時間帯が狙われている可能性がある。大半が成田着の便で、出発地はフィリピンや中国、米国とばらばらだった。

 昨年十月十一日、香港発のジェットスター・ジャパンで成田空港に到着した千葉県の男性は、荷棚からバッグを下ろした際、バッグの口がこじ開けられ、高級腕時計五点(計約二百八十万円相当)を盗まれたことに気付いた。

 男性は空港の税関検査場で被害を申告。その際、男性の腕時計を持っている中国籍の男(31)を偶然見つけた。

 署は同日、窃盗容疑で男を逮捕。男は被害男性と同じ便に乗っていた。

 県警によると、機内の窃盗事件で容疑者を逮捕するのは極めてまれだが、千葉地検は同月末、男を不起訴とした。地検は不起訴の理由を明らかにしていないが、県警捜査三課の幹部は「機内を写すカメラなどがないため犯行の裏付けが難しく、機体も乗務員も移動し、現場保全が困難」と明かす。

 刑法では原則的に、警察が捜査できるのは国内か、日本の航空機・船舶内で起きた犯罪。殺人などの重大事件と異なり、機内の窃盗の場合、日本の航空機か、日本領空を飛ぶ外国の航空機で発生した事件に限られる。領空外を飛ぶ外国の航空機での窃盗事件は、航空機が登録する国の捜査機関に委ねられる。

 航空機や船舶での犯罪に詳しい三平聡史(みひらさとし)弁護士は「外国の航空機内なら、被害者が領空を飛ぶ限られた時間内に盗難に気付くか、現行犯で捕まえるなどして発生場所を特定する必要がある」と指摘する。

 国土交通省航空局は現状、各社に盗難防止の指導をしていない。担当者は「不審な行動をする乗客への客室乗務員の声掛けや、乗客自身が貴重品を離さないことが対策となる」と話している。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019011402000115.html
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