https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190208-00193196-diamond-bus_all

インターネットと出版の異例のタッグで誕生したカドカワ。だが、成長エンジンであったはずのネット事業は衰退し、
出版業界もいずれはジリ貧。統合による新たな成長の柱も、一向に見えてこない。

「動画重過ぎ」「もはや“オワコン”」――。インターネット上にあふれ返る辛辣な意見の数々がユーザー離れの窮地を物語る。

2014年、ネット事業を手掛けるドワンゴと出版大手のKADOKAWAが経営統合して誕生した、持ち株会社のカドカワ。
ネットと出版という異例のタッグの内実は、出版業界が衰退傾向にある出版社が将来有望なネット企業に“救済”を求めた格好でもあった。

だが、当時隆盛を誇った旧ドワンゴのネット事業は、いま凋落の一途をたどっている。

18年3月期決算のセグメント別営業利益では、出版部門の60億円に対し、ウェブサービス部門は10億円の赤字に転落。
16年3月期の同部門の営業利益率は14%と、出版部門の6%をはるかに凌いだが、立場はすっかり逆転した。

元凶は、冒頭の通り主力動画サービス「niconico(ニコニコ)」のユーザー離れによる不振だ。

ニコニコは、もともとユーザー投稿型の動画サービスとして若年層を中心に拡大、有料会員の課金収入によって成長を遂げてきた。

だが、ユーザー投稿型のサービスではここ数年、広告収入モデルの「YouTube」にそのお株を奪われた。
画質の悪さや動画の重さといったシステムの劣後に対する改善の遅さも手伝い、有料会員数は急減。19年9月時点で
有料会員は194万人とピーク時から50万人以上落ち込んだ。

同社は、有料会員数のV字回復のハードルは高いとみており、「投げ銭」といわれる都度課金型の売り上げの比率を
2割から今期末に5割にすることで、有料会員による定期収入依存からの脱却を狙う。

加えて、ニコニコをプロモーション基盤とした新規サービスを複数投入することで巻き返しを図る。

昨年11月にリリースした位置情報ゲームアプリの「テクテクテクテク」は、開発に数年をかけた超大作で、とりわけ期待は大きく、
こうした新作ゲームの貢献などで、19年3月期はウェブサービス部門で前期比20億円の増益、映像・ゲーム部門で同41億円、
2.4倍の増益を狙う野心的な計画を立てる。

だが、ユーザーの不信感は募り、他の動画サイトでのコンテンツ多様化はますます進む。こうした環境で、ユーザーをどこまでつなぎ留められるかは未知数だ。

対照的に、出版部門の業績は安定そのもの。特に、同社の強みである電子書籍事業は絶好調だ。

今期は、海賊版サイト「漫画村」の閉鎖事件以降、各電子書籍事業者がキャンペーン攻勢をかけたこともあり、
電子書籍の外販売り上げは上半期で前年同期比39%増。紙媒体の不振をカバーする。

リスクがあるとすれば「所沢プロジェクト」と呼ばれる、総額400億円を掛けた巨大投資だ。

オンデマンド印刷による新たな製造・流通拠点を整備、小ロット印刷に対応し返品率や過剰在庫などを減少させる。
また工場以外にも、新しいオフィスやコンテンツ発信の場となる拠点を併設する。

返品率の低下などによる収益改善は、1年当たり25億〜30億円を見込み、稼働後10年で投資を回収する計画だが、
今後数年にわたり大規模なキャッシュアウトが続く上に、出版不況がより悪化し想定が狂う可能性もある。

もっとも、17年3月期には400億円の借り入れを行ったことで、キャッシュは潤沢にある。足元では現預金846億円、
自己資本比率44%と財務は一見健全性を保っているため、直ちにリスクが顕在化することはないだろう。