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就活中のセクハラ被害相次ぐ 企業・大学、対策急ぐ
2019年4月20日 10:13

就職活動中の大学生が企業の社員から受ける「就活セクハラ」の被害が相次ぎ、企業や大学が対策を急いでいる。リクルーターやスマートフォンのOB訪問マッチングアプリが普及するなか、大学生と社員が一対一で接する機会が増えているためだ。専門家は「被害に遭っても泣き寝入りした大学生も少なくないだろう。企業側の意識改革が急務だ」と指摘する。

「しつこく連絡が来る」。今年1月、東京都内の私立大のキャリアセンターに女子学生から相談があった。説明会で知り合った志望企業の社員から無料通話アプリで「飲みに行こう」と執拗に誘われているという。

女子学生は相談員に「誘いを断ったら選考に影響するかもしれない」と不安を口にした。ある国立大の担当者も「就活生からのセクハラの相談件数が急増している」と明かす。

女子学生を狙った卑劣な事件も発覚している。警視庁は3月、住友商事社員だった男(24)がOB訪問で知り合った女子学生を酒に酔わせて乱暴したとして準強制性交容疑で逮捕した。大手ゼネコンの男性社員がマッチングアプリで連絡を取った女子学生にわいせつ行為をした事案も明らかになっている。

こうした事案で共通するのは企業や大学の目の届かないところで学生と社員がやりとりをし、面会している点だ。学生にとって社員との面会は企業の魅力や内情を知るために有効だが、大学の紹介やゼミの人脈を頼る従前の手法では希望通りに面会できないことが多かったという。

最近は社会人が出身大学や勤務先を登録し学生は興味のある企業名などで検索できるマッチングアプリの利用が広がっている。多くの人材を集めようと、採用面接に先立って学生と接触するリクルーターを導入する企業も増えている。ある私大の担当者は「学生が見ず知らずの社会人とつながり、セクハラ被害に遭うリスクが増大している」と指摘する。

青山学院大は3月、学生向けのホームページで「自宅、居酒屋、カラオケなどクローズドな場所での訪問はしないように」と呼びかけた。立教大はキャリアセンターにあるパソコンの近くに、就活生のセクハラ被害の新聞記事を掲示して注意を促している。

一方、元社員が逮捕された住友商事は、社員に就職活動中の学生との飲酒を禁止するなどした再発防止策を発表した。訪問の対応時間は平日の午後1〜6時に限定。場所は原則として社員食堂などの社内施設にし、マッチングアプリの利用も禁止した。マッチングアプリの運営会社は、所属企業が指定した社員以外は新規登録ができないようにした。

セクハラに詳しい広島大の北仲千里准教授は「就活生が被害を訴えないケースも多いとみられ、企業や大学は実態を把握できていない。企業は社内教育を徹底し、大学も相談を受けた場合に企業へ抗議するなど厳しい姿勢で臨む必要がある」と指摘する。

現行法は企業に職場でのセクハラ防止措置を義務付け、厚生労働省の指針で具体的な取り組み内容を示している。ただ、雇用関係のない就活中の学生は対象となっておらず、厚労省は企業に就活生への対策を促せるよう指針の見直しを検討している。