https://www.nikkansports.com/general/news/201905170001129.html
 約2億5千万年前、地球史上最大規模の生物絶滅が起きた。海にすむ無脊椎動物種の8割が消えたのだ。
原因は宇宙から降り注ぐ大量のちりだった可能性があるとの研究結果を日本のチームが発表した。
手掛かりは、当時の深海底の環境を記録した日本の地層だ。

▽マリンスノー

この絶滅が起きたのは古生代の最後、ペルム紀。三葉虫、古生代型のサンゴやアンモナイト、陸生昆虫の多くが姿を消した。
ペルム紀とその後に始まる中生代・三畳紀の頭文字から、この時期を「P/T境界」と呼ぶ。

「全地球規模で極端な環境変化が起きたことは間違いない」と磯崎行雄東京大教授。
P/T境界の時期に当時の大陸から遠い深海底で堆積した地層に着目し、真相解明を進めてきた。
この地層は西南日本の各地で見られるチャート層。マリンスノー(プランクトンの死骸)が降り積もってできた。
地球を覆うプレート(岩板)と共に大陸近くに移動、プレートが沈み込む海溝で陸側に付着し日本列島の一部となった。

磯崎さんは25年前、チャート層の分析からP/T境界を挟んで深海が酸素欠乏状態だったことを発見。
約500万年もの間、海洋水の循環がほぼ止まったとみられる。

▽巨大隕石(いんせき)に匹敵

今回、磯崎さんと尾上哲治九州大教授、東大大気海洋研究所の佐野有司教授、高畑直人助教のチームは、岐阜県本巣市の舟伏山にある
P/T境界直前の地層を分析。ヘリウム3というヘリウムの同位体の濃度が異常に高いことを見つけた。

ヘリウム3は隕石など地球外物質に高濃度で含まれる。
この地層では別の同位体、ヘリウム4の量に対するヘリウム3の量が今の地球大気の100〜150倍も高かった。
「10倍なら地球内部のマントルから出た可能性もあるが、100倍超は地球外起源としか考えられない」(高畑さん)

分析の結果、ヘリウム3の多い時期はP/T境界前の50万年ほど続き、その間、同じく地球外起源とみられるイリジウムという金属の濃度も高かった。
深海の酸欠状態が始まった時期に重なる。

現在の地球にも、宇宙塵(じん)という微粒子が年間約4万トン降り注ぐ。
高畑さんの推計では、P/T境界直前の50万年間、ちりの年間流入量は現在の4〜5倍も多く、50万年間で計1千億トン。
約6600万年前、地球に衝突し恐竜絶滅を招いたとされる巨大隕石に匹敵する。

▽超新星の残骸

尾上さんは「ちりの流入が増えた50万年間は、放散虫という世界中の海にいたプランクトンがほとんど絶滅した時期と一致する」と説明する。
大量のちりが大気に影響を与え、地球規模の寒冷化が起きて海洋水の循環が止まり、大絶滅に至ったのではとチームはみる。

一方、海外の専門家から疑問の声も上がる。
「チャート層形成が極端に遅くなり、ヘリウム3が凝集し濃度が高まったのでは」(ケン・ファーリー米カリフォルニア工科大教授)
「別の地層で確認が必要」(オーストリア・ウィーン大のクリスチャン・コーベル教授)

尾上さんは「チャート層形成に極端に長い時間がかかった痕跡はない」と反論する。別の場所での証拠探しも検討中だ。

磯崎さんは、ちりの急増から絶滅まで全体を説明する仮説として、星の最期の大爆発である超新星の残骸など冷たく高濃度のガスやちりに、
太陽系が出合った可能性を挙げる。
「こうした宇宙規模の現象がP/T境界以外の生物大量絶滅にも関与したのではないか」

尾上さんは「ちりの起源を突き止め、地球環境にどんな影響を及ぼしたのか調べたい」と語る。