5/26(日) 10:00配信
毎日新聞

 福岡県糸島市が、市民に配布する「広報いとしま」の最新号(5月15日号)で「性の多様性」を漫画で伝える特集を組んだ。市の職員がゲイ(男性同性愛者)の当事者から体験を聞き取り、職員が自ら漫画を描いた異色の広報誌で、市民からも好評という。

 全30ページのうち12ページを割いて取り上げたのは、かつて糸島市の公立中学校でゲイであることをカミングアウトして教壇に立ったこともある眞野豊さん(37)。市人権・男女共同参画推進課から「LGBTなど性的少数者を特集してほしい」と依頼された秘書広報課の田中伸治さん(41)の頭に浮かんだのが、4年前の人権研究会で知り合った、当時中学教員の眞野さんだった。

 日本学術振興会特別研究員の眞野さんは現在、母校の広島修道大(広島市)で非常勤講師として「性の多様性と学校教育」などを教えている。連絡を取った眞野さんから了解を得た田中さんは「市民に分かりやすく伝えたい」と、独学した漫画で眞野さんの半生を描くことにした。

 糸島市は昨年3月、眞野さんの助言を得ながら「性の多様性」について授業をする際の学年ごとの注意点を盛り込んだ、全国的にも珍しい教員向けの手引を作っており、この手引も参考にした。

 完成した「広報いとしま」には、北海道出身の眞野さんが小学生のころ、教師から「もっと男の子らしくしないと」と言われ苦しんだことや、高校時代、ゲイであることがばれるのを恐れ教室でいつもびくびくしていたこと、大学時代にLGBT当事者のパレードに参加して差別と闘う決意をしたことなどが描かれている。

 漫画だけでなく、当事者たちを取り巻く差別の状況や関連する用語説明などの文章も付け、理解を助ける工夫をした。眞野さんのインタビュー記事も写真付きで掲載している。

 眞野さんは「最近はLGBTを取り上げる自治体の広報誌もあるが、漫画は珍しい。性的少数者が体験することを忠実に再現してくれた。漫画だからこそ伝わったのではないか。『まるで自分の話だ』という当事者の声も聞いた。泣きながら読んだ」と話す。市民からも「涙が出そうになった」などの声が市に寄せられているといい、田中さんは「当事者以外にも響いてうれしい」と語った。

 糸島市では教員向けの手引を基に、今年度から全ての小中学校で「性の多様性」に関する授業が始まっている。田中さんは「『自分は当事者ではないから無関係』ということではない。多様性が受け入れられる地域になってほしい」と願う。「広報いとしま」は糸島市のホームページでも読むことができる。【杣谷健太】

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 眞野さんについては、昨年5月13日付の毎日新聞朝刊「ストーリー」でも特集している。