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 【シンガポール=森浩】南シナ海でフィリピン漁船が中国漁船と衝突した“事故”が発生し、波紋を広げている。フィリピン側は海に投げ出された中国漁船が「乗組員を救助しなかった」として批判。断交の可能性すらちらつかせて抗議した。ドゥテルテ政権誕生以来、蜜月とされた中比関係は南シナ海をめぐってすきま風が吹くが、新たな火種が生まれた格好だ。

 衝突が発生したのは9日。フィリピン側の説明によると、南シナ海のリード堆(中国名・礼楽灘)周辺に停泊していたフィリピン漁船が中国漁船と衝突し、沈没した。フィリピン漁船の乗組員22人が海に投げ出されたが、中国漁船はそのまま立ち去ったという。乗組員はその後、ベトナム漁船に救助された。

 フィリピンは衝突に敏感に反応し、ロレンザーナ国防相は「中国の漁船とその乗組員の行為は野蛮だ」と救助に当たらなかったことを批判。パネロ大統領報道官は13日の記者会見で、衝突が故意だった場合には中国との断交もあり得るとの考えを示した。

 リード堆周辺について仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)は2016年、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるとの判断を示した。中国側は仲裁裁判所の判断を受け入れておらず、近郊で中国船の航行や漁船の操業が続く。

 ロイター通信によると、駐比中国大使館は衝突の事実は認め、中国漁船は救助を試みようとしたが「突然、7、8隻のフィリピン漁船に包囲された」ため、自らの安全確保のため現場を離れたと説明した。中国外務省の陸慷報道官は17日の会見で「偶然」と繰り返し、故意ではなかったことを強調した。

 フィリピン大のジェイ・バトンバカル教授(海洋法)は「投げ出された乗組員を放置したのは国際海事法や海事慣習に反する。中国の対応は、中国がフィリピンとの関係をどの程度尊重しているか示している」と反発する。

 南シナ海では1〜3月、フィリピンが実効支配するパグアサ(英語名・ティトウ)島周辺で約200隻の中国船が確認され、フィリピン国内で反中抗議デモが発生した。3月には中国とベトナムなどが領有権を争うパラセル(西沙)諸島海域で、中国の海上巡視船がベトナム漁船に水を噴射。逃げようとしたベトナム漁船が岩に衝突して沈没するなど、中国と周辺国で摩擦が続く。中国漁船には中国の海上民兵が乗船しているケースも確認されており、関係国は神経をとがらせている。