2019.09.16 Mon posted at 18:50
(CNN) 漢方薬は何世紀にも渡り、世界中で病気の予防や治療に使われてきた。しかし、漢方薬が最も広く使用され、その効用が実証されてきたのは中国だ。

中国医学の支持者らは、伝統中国医学(TCM)を世界で主流とされる西洋医学に統合するための取り組みを行ってきたが、その長年の努力がついに結実した。世界保健機関(WHO)の政策決定機関である世界保健総会(WHA)は5月25日、伝統医学に関する章を初めて盛り込んだ「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(以下、国際疾病分類:ICD)の第11回改訂版(ICD−11)を正式に承認した。

しかし、この動きに批判的な見方もある。生物医学界からは、WHOは一部の漢方薬に毒性があること、漢方薬の効果を裏付ける証拠が不十分であることを見過ごしている、との声が上がっている。また動物の権利擁護者らも、TCMの一部の治療にはトラ、センザンコウ、クマ、サイなどの臓器が使用されており、WHOがTCMを承認したことにより、今後これらの動物が一段の危険にさらされると主張する。

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の薬理学・医学部教授アーサー・グロールマン博士も、この動きは効果が実証されていない治療を正当化することになり、医療費の大幅な増加にもつながると指摘する。

世界基準?
国際疾病分類(ICD)は、数千の疾病や医療診断を分類した重要文書で、研究の仕方に影響を与えたり、保険の補償範囲の決定に利用されることもある。

WHOは、今回の改訂版に伝統医学の条件や医療行為を含めた理由について、全世界で数十万人がこれを利用しているため、と説明する。

WHOのタリク・ヤシャレビチ報道官は、伝統医学は診療記録が不十分であったり、全く記録されていない場合もあり、ICDに伝統医学を盛り込むことにより、「伝統医学の医療行為を世界基準や標準開発と結びつけることができる」と語る。

しかし、ヤシャレビチ報道官は、ICDへの追加は、伝統医学の医療行為の科学的妥当性や伝統医学の介入の有効性を承認するものではない、と付け加えた。

今回の動きは、TCMをICDに盛り込むよう働きかけてきた中国の指導者らにとって大勝利といえる。

中国はこれまで、国際舞台でTCMを推進してきた。同国の世界的イメージの改善、影響力の強化に加え、世界的に成長している医療市場のシェア獲得が狙いだ。

しかし、WHOの動きに一部の科学者らは困惑している。

漢方薬の効果はほとんどの場合証明されていない。さらに欧米では西洋医薬の毒性や発がん性を調べるために体系的な試験が行われているが、それと同じ方法で試験が実施されている漢方薬はごくわずかにすぎないと、前出のグロールマン博士は指摘する。

また博士が、長年医療目的で使用されてきたウマノスズクサを独自に調べた結果、がんや腎不全を引き起こす恐れがあることが分かったという。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの薬理学教授デビッド・コルクホーン氏も、あらゆる伝統医学に効果があることを示せるだけの証拠は「取るに足らないほど乏しい」と指摘する。

コルクホーン氏は、最近欧米で人気が急上昇している鍼(はり)治療について、いくつかの研究でわずかな効果が認められたが、臨床的意義はないとし、さらに鍼を体のどこに刺しても違いは全くないという証拠が相次いで見つかっていると指摘した。

漢方薬から開発された重要な薬として、マラリアの治療薬アルテミシニンが挙げられる。中国人の科学者トゥ・ヨウヨウ氏は2015年に、この薬でノーベル医学・生理学賞を受賞した。

全文
https://www.cnn.co.jp/fringe/35140363.html
https://www.cnn.co.jp/storage/2019/07/24/a8439feaa9eeb7c97e27e727e01c08c6/t/768/432/d/herbal-medicine-stock-super-169.jpg
関連ソース
日本の漢方、国際標準化で中国に後れ
https://r.nikkei.com/article/DGXNASDD2307P_U0A820C1000000