ベテラン人事ジャーナリストの溝上憲文が、人事に関する「経営者が対応すべき施策」を提言する。今回は施行までいよいよ半年を切った「パートタイム・有期雇用労働法」について。同法は、同一労働同一賃金の規定を盛り込んでいるが、
正社員と非正社員の待遇差を解消しようとすれば、これまで低い賃金で使ってきた非正社員の賃金を上げざるを得ない。ということは、経営者は空前の「コスト増」に苦しむことになるが……。

 政府の働き方改革関連法の大きな柱である同一労働同一賃金の規定を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月の施行までいよいよ半年を切った(中小企業は21年4月)。

 最大の狙いは均等・均衡待遇原則に基づき正社員と非正社員の不合理な待遇差の解消を目指すことにある。非正社員とは有期雇用契約労働者、パートタイム労働者、派遣労働者のことだ。均等待遇とは、働き方が同じであれば同一の待遇にしなさい、
均衡待遇とは働き方に違いがあれば、違いに応じてバランスをとって待遇差を解消しなさいということだ。

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 実際に頭を抱えている企業も多い。パート・アルバイトを含めて1500人の非正社員を抱える飲食チェーンの人事部長はこう語る。

 「今年4月に施行された残業時間の上限規制によってこれまで見過ごされてきたサービス残業も割増賃金を払うようになり、従来以上に人件費が増えました。今度は同一賃金同一労働の法制化で非正社員に支払っていなかったボーナスや諸手当も
支給しなければいけなくなります。正社員と同じ手当を払えば、下手をすれば事業の存続にも影響します。今、正社員の賃金体系も含めて全体の制度を見直している最中ですが、それでもかなりの人件費増は避けられません」

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 すでに大企業の中には、法律施行前に正社員と非正社員の待遇差を解消する動きも出ている。日本通運は全国の支店で働くトラックやフォークリフトの運転手や事務職など約6000人の非正社員の賃金を正社員の水準まで
引き上げる制度を19年4月から導入している。給与の引き上げだけではなく、結婚や家族や親族が死亡した場合の慶弔休暇も正社員と同じにした。

 ブリヂストンは国内工場の約1300人の契約社員に正社員と同水準の夜勤手当(一律2万円)の支給を18年4月から始めている。トヨタ自動車も18年4月から、2年以上働いている非正規の期間従業員に対し、子ども1人当たり月2万円の
家族手当を支給している。

 NTTも正社員に支給していた社員食堂などで使える月額3500円相当の電子マネーや食券の「食事補助」を廃止し、18年から仕事や生活面から支援する「サポート手当」(3500円)として有期雇用のフルタイム勤務者まで拡大して支給することにした。

 法律の施行が来年の4月に迫る中で、労働組合がある企業を含めた労使協議も大詰めを迎えている。労使協議には直接の当事者である非正社員も当然加わる必要があり、その上で新たな賃金制度などの制度設計を行う必要がある。
前出の弁護士は「労使でまず手をつけるべきは手当でしょう。非正社員から見ても顕在化しやすい職務関連手当、賞与、生活関連給付について優先順位をつけて確認することが大事です。手当が支給されていなければ、
合理的理由が言えるかどうかを検証し、言えないとすれば施行までに制度の改定などの検討しておく必要があります」と指摘する。

 一方、諸手当を巡る労使交渉において正社員の手当をなくして待遇を下げることで格差を是正しようとする企業が増えることが懸念されている。ガイドラインではそれを踏まえ、事業主が正社員と非正規社員の不合理な
待遇差の相違の解消を行う際は「基本的に労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえない」と釘(くぎ)を刺している。

 企業は労使協議による合意や制度の変更などの作業に加えて就業規則の変更も来年4月までに完了しなくてはならない。不備な点があれば、今後訴訟リスクが高まることになる。残された時間は少ない。

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