事件が日本中から注目されることになったのは、わずか5才の少女、船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待死したという衝撃とともに少女が両親に宛てた「反省文」が遺されたからだろう。

《もうパパとママにいわれなくてもしっかりと じぶんからきょうよりか もっともっとあしたはできるようにするから もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします もうおなじことはしません ゆるして(略)これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたい だからやめるので もうぜったいぜったいやらないからね わかったね ぜったいのぜったいおやくそく(略)あしたのあさはきょうみたいにやるんじゃなくて パパとママにみせるってきもちでやるぞ えいえいおー(後略)》

 両親に許しを請う少女の文面は、けなげで痛々しい。しかし、そのメッセージを向けられた当の母親・優里被告(27才)に話を聞くと、新たな事実も浮かびあがってくる。

 なぜ結愛ちゃんは死ななくてはならなかったのか──。拘置所の優里被告に8度面会したルポライター・杉山春氏が優里被告の肉声を届ける。(前編・全3本)

◆私は無知で、被害者ではなく加害者で…

※中略

 この一家に日本中の関心が注がれたのは、結愛ちゃんが残した、“反省文”がきっかけだった。

《もうおねがいゆるして》という文章が報道されると、多くの人々が、一家が住んでいたアパートを訪れ、手を合わせた。死の直前の結愛ちゃんは、過酷な生活を強いられていたと報道された。

 午前4時に自らセットした目覚ましでひとり起床。その後、九九や平仮名の練習。食事にも制限が加えられた。朝はスープ1杯、昼はご飯茶碗3分の1、夜はご飯茶碗2分の1。言うことを聞かなければ、それが1日1食となる。

 ルールに背くと雄大から執拗な説教があったとされる。それを、優里が半ば黙認していたかのように伝えられた。だが、事実は少し違う。

 たとえば反省文について、優里は、「逮捕後、(警察から)手紙を見せられて、何これ、って思いました」と語る。

 優里に反省文の記憶はなかった。だが、見せられた現物には優里の添削の跡があった。たとえば「つ」を赤ペンで小さい「っ」に直してある。

「それは明らかに私の字ですから言い逃れはしてない」と言うが、文面にも思い当たることはあった。香川県時代、優里自身が、雄大から毎日のように長時間の叱責を受けていた。その後毎回、LINEで叱ってくれてありがとうという感謝の言葉とともに反省文を送った。雄大を怒らせると、説教がさらに長くなるため、文面は何度も練り直した。その文章によく似ていたという。

「文章を思い出そうとするうちに、結愛が椅子に座っていて私が右隣に座り、赤ペンを入れていた時のことが、写真のようにパッと浮かびました」

 雄大に長時間説教をされた結愛ちゃんをみかね、それ以上叱責されないように、優里が「こう書くと雄大が怒らない」と2人で一緒に書いた可能性があるという。結愛ちゃん独自の文章ではなかった。添削したのは、誤字が新たな説教を呼び起こすからだ。

 ちなみに《あそぶってあほみたい》という文章は、5才児には不自然な表現として話題になったが、もとは優里自身の反省文の一節だと思われる。結婚前、結愛ちゃんと隣街の動物園に行くなど自由に過ごしていたことを咎められ、謝ったという。

 また、書き込まれた《わかったね》という言葉は雄大の口癖だった。反省文からは、結愛ちゃんへの虐待とともに、優里と雄大の歪な夫婦関係も見えてくる。

「彼と結婚した後、私、ものすごく頑張りました。これ以上、頑張れないくらい頑張ったんです。でも、今思うと、頑張る方向を間違っていたんだと思います」

◆「生まれてくる赤ちゃんのためにもしっかりしつけろ」

以下全文はソース先で

そして悲劇は起きた。
(中編に続く)

◆取材・文/杉山 春●雑誌編集者を経て、フリーのルポライターに。『ネグレクト』(小学館)で第11回小学館ノンフィクション大賞受賞。子育て、親子問題、虐待死事件、自死、引きこもりなどをテーマに、数々のルポを執筆している。

2019年11月22日 6時57分
NEWSポストセブン
https://news.livedoor.com/article/detail/17417220/
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