福岡県内の中学生が2019年12月、複数のプレーヤーが戦い合う人気のオンラインゲーム「荒野(こうや)行動」で知り合った何者かに大麻の購入を持ちかけられた。全国では未成年者がオンラインゲームを通じて近づいてきた相手に誘い出され、犯罪に巻き込まれたケースもある。インターネット上で協力していくうちに知らない人同士も親密になるオンラインゲームの特性が悪用された形で、専門家は注意を呼び掛けている。


 県教委などによると、12月中旬、大麻の購入を持ちかけられた粕屋郡の中学生が学校に相談して発覚した。生徒は購入しなかった。近隣の学校は同様の誘いがあった場合、速やかに警察と担任に連絡するよう保護者にメールで注意喚起したが、メールを受け取った保護者の女性は「子供のネット上のやりとりをすべて把握するのは難しい」と悩む。

 「荒野行動」は、無人島などで生き残りを懸けて最後の1人になるまで戦い合う「バトルロイヤルゲーム」と呼ばれるジャンルのオンラインゲームの一つで、男女問わず10代の子供たちや若者を中心に高い人気がある。ゲーム中にプレーヤー同士で会話する「チャット」機能もあり、協力し合いながら戦うことも可能だ。

 総務省が18年に実施したアンケートによると、ネットの利用経験がある13〜19歳のうち56%がオンラインゲームをしている。スマートフォンの普及で急速に広がっているとみられ、ゲームを悪用した犯罪も相次いでいる。


 19年1月にはゲームで知り合った福岡県内の小学男児にわいせつな行為をしたとして、高松市の20代の女が強制性交等容疑で逮捕された。9月にも石川県の少女を三重県の宿泊施設などに連れ回したとして、30代の男が未成年者誘拐容疑で現行犯逮捕された。いずれも接点は「荒野行動」だった。

 ゲームで知り合った人同士が直接会うのはオンラインゲーム全般で珍しくはない。オンラインゲームを利用する20代男性は「利用者が直接会う『オフ会』は共通の話題で盛り上がるし、利用者同士が結婚することもある」と明かす。問題はそうした友情や恋愛感情につけ込む悪質な利用者がいることだ。男性は「ほとんどの人がマナーを守っているのに、事件でオンラインゲーム全体のイメージダウンにつながらないか心配だ」と声を落とす。

 全国の警察は、未成年者がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて売買春や違法薬物売買などの犯罪に巻き込まれないようツイッターなどの書き込みを監視する「サイバーパトロール」で一定の成果を上げている。しかし、ある捜査関係者は「対策はツイッター中心で次々と新作が生まれるオンラインゲーム対策まで手を付けられていない」と打ち明ける。

 元小学校教諭でITジャーナリストの高橋暁子(あきこ)さんは「特に音声でチャットできるゲームはツイッターやフェイスブックなどのSNSより親しくなるきっかけをつかみやすく、既に出会い系サイト代わりに使われている。保護者や学校関係者は子供たちがネット上に安易に個人情報をさらさないよう啓発に力を入れる必要がある」と指摘する。【中里顕】

オンラインゲーム「荒野行動」

 中国企業が運営するスマートフォンやパソコン向けのゲーム。世界中で人気を博し、2017年11月の配信開始以降、国内だけで数千万回ダウンロードされている。同時に参加できるのは最大100人ずつ。プレーヤー同士の「チャット」の内容を当事者以外は非公開にもできるほか、ゲームの中でプレーヤー同士が「カップル」となり交際できる機能もある。GPS(全地球測位システム)機能で互いの位置もわかり、音声で会話もできるため個人情報を不用意にさらすリスクも指摘されている。


人気のオンラインゲーム「荒野行動」の画面。ゲームを通して知り合った相手に誘われ未成年者が事件に巻き込まれるケースもあった=福岡市中央区で、矢頭智剛撮影
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12月30日 18時31分 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20191230/k00/00m/040/297000c