脱米依存へ強い欧州 仏大統領、独自の「核の傘」視野
戦略対話を提案、ミュンヘン安全保障会議閉幕
2020年2月16日 19:30 [有料会員限定記事]

【ミュンヘン=石川潤】各国の首脳・閣僚級が100人以上集まったミュンヘン安全保障会議が16日、閉幕する。中東政策や多国間主義をめぐって米国と欧州の対立が深まるなか、マクロン仏大統領は米国に頼らない「強い欧州」の実現へ安全保障分野の戦略対話を欧州各国に提案した。フランスが保有する核兵器を利用した欧州独自の「核の傘」も視野に入れる野心的な内容だが、実現へのハードルは高い。

「すべてのパートナーとの戦略対話を提案する。これには核の分野も含まれる」。15日登壇したマクロン氏はこう提案した。自国第一を唱えるトランプ政権の米国が欧州への関与を低下させているなか、地域共通の防衛戦略を練り直す必要があるというのがマクロン氏の考え方だ。

北大西洋条約機構(NATO)は「脳死状態」と語って物議を醸したマクロン氏だが、この日はNATOの重要性も認めた。そのうえで、米国に追随するだけではなく独自の戦略を発展させていくべきだと訴えた。

注目は、フランスが保有する核を欧州の防衛のために使いたいというマクロン氏の構想だ。1月末の英国の欧州連合(EU)離脱で、フランスはEU内唯一の核保有国となった。核の共有などで欧州を独自の核の傘に入れることを検討する。

マクロン氏の提案の裏には、米国と欧州の世界観の違いがある。今回のミュンヘン安全保障会議のテーマが「消える西側」だったように、自由主義や多国間主義が内外から侵食されているという危機感が欧州には強い。シュタインマイヤー独大統領は開幕講演で「米国は現政権のもと、国際社会の理念を退けている」と批判した。

米国の考え方は異なる。15日に登壇したポンペオ国務長官は独大統領の発言をわざわざ引用して「ひどい誇張だ」と否定し、中国やロシア、イランこそが脅威だと強調した。「帝国になろうとしている国」とのパワーゲームのさなかに、欧州に理想主義を押しつけられても困るというわけだ。

これまでの国際秩序を守りたい欧州と新しい覇権争いに入った米国――。双方の溝が深まるなかで、欧州としては米国に頼らない「強い欧州」を模索せざるを得なくなっているといえる。

前途は険しい。ロシアと近接し米国の軍事力への依存が強い東欧諸国にとって、マクロン構想は受け入れがたい。特に核の問題は、フランスが保有する核兵器だけで欧州全体に抑止力が効くのかという根本的な問題が横たわる。中道左派を連立政権に抱えるドイツなどにとっては政治的に極めて重いテーマだ。

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