東京・福生のスーパーマーケットの一角に、異様な雰囲気を放つコーナーができていた。黒地に緑のストライプの縦長の箱が設置され、箱の正面には「昆虫食」。不気味なサソリと芋虫の絵が描かれている。

 私は以前、「私が虫を食べるわけ」(ダニエラ・マーティン著)という昆虫食を勧める本の書評を書いたことがある。昆虫はいかに栄養価が高く、地球環境を汚さず、かつ効率よく養殖でき、未来の地球を救う重要な食材であるということを理解した。

 2013年には、国連食糧農業機関が食糧問題の解決策の切り札のひとつとして「昆虫食」を推奨する報告書を発表。欧米を中心に食用昆虫ビジネスが加速しているというが、私は昆虫食を身近なものと感じたことはない。ミャンマー料理店でコオロギとセミの素揚げを一度食べてみたが、それっきりだ。

 なのに、いつも行くスーパーに昆虫食コーナー。「アーマティルスコーピオン」(サソリ2匹)や「サゴワーム」(ゾウムシの幼虫)は1400円、「モォゥルクリケッツ」(オケラ)1100円、「シルクームプペイ」(カイコのさなぎ)1000円、「グラスホッパー」(バッタ)1200円と、いずれも高額なのだが、ほぼ売り切れ!

 残っていたのは2600円の「クリケット」(ヨーロッパイエコオロギ)のみ。

 これほど昆虫食愛好家がこの街にいるのか。「ならば!」と勇気を振り絞り、コオロギ(写真)を購入。週2回勤務する、不登校や元ひきこもりの若者たちの集いの場「居場所」へ持っていった。悲鳴が上がるかと思いきや、「興味があったんです! 夢がかなってうれしい!」と喜ぶ16歳女子や、ゲームを中断して食べにくる20代男子など、全体のウケは悪くはない。

 袋から出てきたのは3ミリほどの乾燥したコオロギ。食べてみると、良くも悪くもインパクトがない味。若者たちの感想は「なんか微妙。ちょっとナッツっぽい」「味付けしてあれば。最後、土のような味が残る」。

 私自身が「昆虫を食卓に」となるかと言えば難しい。でも、昆虫食へのハードルを下げることは必要かもしれないと思い始めている。その矢先、25歳の次男がこう言って出かけていった。

「ミルワーム(幼虫)、食べてみたい!」

 最初に昆虫食コーナーを発見してから数日後、スーパーでは昆虫食が補充され、ほとんどの品がそろっていた。新型コロナの影響で米やカップ麺が品薄であることを考えると、昆虫食も選択肢のひとつに考えてもいい?

(ノンフィクション作家・黒川祥子)

ソース 3/4(水) 9:26配信日刊ゲンダイDIGITAL
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200304-00000009-nkgendai-life
画像 ちょっとナッツっぽい?(C)日刊ゲンダイ
https://amd.c.yimg.jp/amd/20200304-00000009-nkgendai-000-1-view.jpg