https://newsphere.jp/national/20200309-1/
 新型コロナウイルス感染拡大を阻止するため、中国は都市封鎖や国民の徹底した監視を行い、ウイルス封じ込めを成功させつつある。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、中国のいまだかつてない大胆な策は各国の手本になるものだと褒めたたえているが、
中国へのあからさまな配慮が感じられる態度に疑問の声が出ている。

◆中国を絶賛、WHO事務局長として適切?
WHOは1948年に創設された国連の専門機関だ。
すべての人に最高レベルの健康をもたらすことを目標とし、世界における伝染病の管理や根絶、健康管理能力の向上に力を注いできた。
これまでアウトブレイクの起こった感染症をコントロールしてきたように、新型コロナ対応でもリーダーシップを発揮することが求められている。

ところが、今回のWHOの新型コロナ対応には中国の多大な影響があるのではないかと国際的な批判が出ている。
テドロス氏は中国に過剰なほどの賛辞を送ったのとは対照的に、各国の感染防止対策を批判。
さらに中国への渡航制限は不要だとし、アウトブレイクの「逆襲と政治化」に対して警鐘を鳴らした。
非営利の外交シンクタンク、外交問題評議会の研究員、マイケル・コリンズ氏は、こういったWHOの中国びいきは義務の放棄ではないかと述べている。
ジョージタウン大学のローレンス・ゴスティン教授も、過度な中国賛美によって、権力に対しても物申す信頼できる科学的権威としてのWHOの評判が
長期的に傷つけられることを懸念するとBBCに述べている。

◆中国配慮の典型例 台湾加盟を許さず
コリンズ氏は、WHOにおける中国の影響は、台湾に対する扱いからも明らかだと述べる。
1971年に中国がWHOに加盟後、WHOは一つの中国を理由に台湾の会員資格を阻止してきたが、世界的な健康危機のいま、台湾を排除するのは問題だと同氏は述べる。
台湾は加盟国ではないため、WHOから直接情報はもらえない。
新型ウイルスの感染はこれまで32件しかないのに、中国本土と一緒にされ、数ヶ国から渡航規制の対象にされるということも起きた。

WHOの世界保健総会で台湾の加盟を求める他国の提案は、2016年以来毎回アジェンダから外されているという。
中国の台湾外しは、ほかの国際機関でも行われているが、世界への影響は通常あまりない。
しかし、健康はすべての政府を同等につなげて情報を与えることで、効果的な国際的対応ができる分野だとCNNは述べ、WHOの対応に疑問を呈している。

◆金はモノを言う 頼るべきはもはやアメリカではない
テドロス事務局長が中国を擁護し続けるのは、2017年の事務局長選で中国の協力を得て当選したこともあるとコリンズ氏は見ているが、
中国のWHOへの拠出金の増加も理由だと述べる。
WHOには各国から分担金のほかに、任意拠出金が支払われており、近年予算不足を補うため、任意拠出金に頼る傾向にあるという。
アメリカに比べれば、中国からWHOに流れる資金はまだまだ少ないが、アメリカのリーダーシップが低下するなか、中国の貢献は増え続けており、
将来的にはWHOにとってより頼れるパートナーになりそうだとしている。

中国の他国に対する影響力も理由の一つだとCNNは指摘する。
WHOは事務局長の指名と選択、アジェンダの設定をする加盟国によって直接コントロールされる。
政治的にも経済的にも、加盟国に多大な影響力を持つ米中のような大国を怒らせることはWHOにはできないと説明している。

◆実は作戦? 事務局長はつらい
一方、中国上げはテドロス氏の戦略だという見方もある。
科学ジャーナリストのカイ・カプフェルシュミット氏は、中国が気難しく透明性のない国と知っていたからこそ、テドロス氏は中国から情報を取り、
中国の対応の仕方に影響を与えるために、あえて怒らせない方法を取ったと見ることもできるとする(CNN)。

もしも感染拡大の危機の際にテドロス氏が逆に中国を批判し、WHOの活動能力に支障を与えることになっていれば、メディアから叩かれまくっていただろうとCNNは述べる。
元WHOコンサルタントで香港大学のトーマス・エイブラハム氏は、「中国同様、結局何をやっても批判されるということだ」と述べ、WHO事務局長のつらさを一言でまとめている。

もっともBBCは、これまでの努力が民主主義国からどのように見られているかをわかっていないという点で、テドロス氏の政治的手腕はそう冴えたものではないだろうとしている。