「多摩格差」という言葉がある。東京都の西側の多摩地区と、東側の23区の各種インフラの格差を示すもので、18日に告示された都知事選でも軽減を訴える候補がいる。再選を目指す小池百合子知事が2016年の前回知事選で公約に掲げた各種課題解消を目指す「七つのゼロ」にも「多摩格差ゼロ」があった。具体的な内容や、都の取り組み、今回の選挙での主張を調べてみた。【和田浩明】


はっきりしない定義
 多摩地区は人口で都の約3分の1の400万人超、面積で半分を占める。「三多摩格差」の言葉は半世紀以上前からあった。「三多摩」は北・南・西の三つの多摩郡をまとめた名称だが、市制施行が進んで北・南多摩郡がなくなり、呼び名は「多摩」に変わった。

 多摩地区は高度経済成長期に爆発的に人口が増え、各種インフラ整備が追いつかず23区との差が広がった。1975年には都が「三多摩格差8課題」として(1)義務教育施設(2)公共下水道(3)保健所(4)病院及び診療所(5)道路(6)図書館・市民集会施設(7)国民健康保険料(8)保育料――を設定したこともある。

 ただ2001年に都が策定した「多摩の将来像2001」は既に、義務教育施設や公共上下水道、道路などの格差は「かなりの部分で解消」し「区部との対比ではない新たな視点」が求められているとも指摘している。

 では何が現在の「多摩格差」なのか。定義は語る人によって異なり、明確ではない。子供の医療体制や中学校の給食、学校教室へのエアコン設置率、無電柱化の比率などを挙げる都議会議員もいる。

小池氏、都議会で言及9回
 公開されている都議会議事録を検索すると、小池氏就任後に「多摩格差」や「三多摩格差」は119回ヒットした。そのうち、小池氏による「多摩格差」言及は9回だ。

 答弁で小池氏は、多摩格差は「かなりの部分で解消している」と前置きし、人口減少や少子高齢化の対応など地域ごとの課題があり「一つ一つその解決に向け取り組んでいく」と述べている。16年12月には多摩地区の周産期医療の充実や、無電柱化推進の「強い決意」に触れた。17年の答弁では、格差解消の施策への具体的な言及は見当たらない。

 一方、都は17年9月に「多摩の振興プラン」を策定。当面の取り組みとして、暮らしやすいまちづくりや交通ネットワークの充実強化など5項目をあげている。都は同プランに基づく実績を報告したが、数値目標に基づく達成度評価などは含まれず、公約の「格差ゼロ」が実現したのかはあいまいだ。

 都政に詳しい佐々木信夫・中央大名誉教授は「そもそも定義も評価軸もはっきりしない」と指摘。多摩地区内での移動の不便さを改善する交通網の整備や就業機会の拡大も進んでおらず、大学も都心回帰の傾向が続き「小池都政が大きな変化をもたらしたとは言い難い」と分析した。

 地下鉄やJR山手線を中心に都心の鉄道では普及が著しく、事故防止に効果を発揮しているホームドアが多摩地区を貫くJR中央・青梅線では設置に向けた動きがない▽都内の精神科病院が多摩地区の山間地に偏在し「高齢者の収容所と化している」(精神科診療所のソーシャルワーカー)――といった格差の解消を求める切実な声もある。

 今回の知事選では大きなテーマになっていないが、取り上げている候補者はいる。小池氏は動画で「多摩格差」に関する質問に答えている。新型コロナウイルス対策で密集を軽減するためにも、緑の豊かな多摩地区の持続的発展が重要だと強調。就任後の同地区などへの交付金増額や多摩都市モノレールの延伸など多摩のインフラ整備に力を入れていると強調した。

 宇都宮健児氏はウェブサイトで「業務・商業地区の多摩地域などへの分散促進」や「倒産防止、雇用・失業・職業訓練の対策を進める」と表明している。

 小野泰輔氏は、新型コロナ禍対応でテレワークを推進するため、多摩地区に五つのモデル地区を設置する構想をウェブサイトで表明している。

あなたの都知事選

 「あなたの都知事選」は毎日新聞社とYahoo!ニュースによる共同企画です。首都の顔を選ぶ選挙と、東京の課題を分かりやすく伝えます

毎日新聞6/28(日) 11:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/09454c00441b3d939be004f3b209cc97ea967369?page=1