「お金をやると言われても、食べられない」。和歌山県民は大の納豆嫌いで知られる。県都・和歌山市の納豆消費の少なさは突出しており、2月に総務省が発表した昨年の家計調査では、1世帯あたりの支出額は和歌山市が全国52都市の中で最下位。過去13回の調査でも8回にわたり最低を記録している。ただ、ここ30年の長い期間で見ると、支出額は倍増しており、じわじわ浸透してきているともいえる。(張英壽)

全国で突出した低さ

 総務省が毎年実施する家計調査では、1世帯あたり(2人以上)の納豆に対する年間の支出額も調査。昨年は都道府県庁所在地と政令指定都市の計52都市のうち、和歌山市が最下位の2190円で、2番目に低い大阪市より319円も低かった。次いで神戸市(2614円)、京都市・高松市(いずれも2822円)、那覇市(2962円)の順で少なく、近畿や四国の都市などが下位5位に入っている。

 一方、支出額が高いのは、福島市が6785円とトップで、和歌山市とは3倍以上の開きがある。「水戸納豆」で知られる水戸市は2位の6647円。3位以下は盛岡市(6399円)、山形市(6281円)、長野市(5934円)と続き、上位は東北など東日本の都市だ。

 平成19年以降の家計調査を調べると、和歌山市は20、21、22、23、26、27、28の各年が最低で、昨年と合わせると最下位が8回。19年以降、他都市が最下位になった回数は大阪市が2回、高知市が1回、高松市が1回、徳島市が1回で、和歌山市が突出している。

街頭では「好き」も

 家計調査には表れていないが、和歌山県全体でも納豆はあまり食べないとされる。県の玄関口であるJR和歌山駅(和歌山市)前で7月上旬、県民に「納豆が好きか」と聞いてみた。

 「嫌い。においも味もダメで、これだけは無理。お金をやるといわれても、食べられない」

 岩出市の男性会社員(58)はこう打ち明けた。納豆は子供のころから食卓にのぼらず、結婚してから出されるようになったが、食べようと挑戦したものの無理だったという。

 紀の川市の主婦(48)も「においも味も大嫌い。天ぷらにしても食べられなかった」。「嫌い」と答えた和歌山市の無職女性(61)も「においがなじめない。健康にいいと聞くけど、嫌いなものを無理に食べる必要はない」と言い切った。

 こう紹介すると、県民の納豆嫌いは間違いないように思えるが、実は20人に聞いた中で「嫌い」と答えたのは5人だけで、「好き」が過半数の12人、残りの3人は「どちらでもない」だった。

 「嫌い」の回答者はいずれも納豆独特のにおいに拒否感を持っていたが、「好き」と答えた12人のうち、かつては食べなかったり嫌いだったりしたが、何らかのきっかけで好きになったとする回答が5人あった。

 和歌山市の看護師の女性(41)は「昔はにおいが耐えられず大嫌いだったが、子供の離乳食に使い、自分でも食べたところにおいが気にならなくなった」という。

 和歌山市の納豆に対する支出は、30年前の平成2年には1014円だったが、昨年はほぼ2倍の2190円に増加。支出額は他都市に比べて格段に低いものの、納豆が徐々に浸透していることが読み取れる。

和歌山市では給食にも

 和歌山県民の納豆嫌いの原因として、業界関係者が一様に指摘するのが、海に面し豊富な魚介類が取れる風土だ。県によると、周辺海域の魚は種類が多く、ムロアジ類やタチウオ、イサキなどが全国有数の漁獲量を誇っている。

 関西納豆工業協同組合理事長で、相沢食産(兵庫県福崎町)の相沢勝也社長(60)は「納豆は保存食。和歌山県は魚資源が豊富で、冬にも取れるので、保存食に頼る必要はない」と指摘する。

 ただそんな和歌山県でも納豆支出は徐々に伸びている。スーパーではどんな製品が売れているのだろうか。

 県内などでスーパーを展開する「松源(まつげん)」の和歌山インター店(和歌山市)では、さまざまな納豆が並んでいた。納豆売り場は隣接する漬物や豆腐の売り場よりは狭いが、22種類の製品を扱っているという。

 売り上げ上位3製品はいずれもにおいが控えめで、2位は県内メーカーの製品だった。街頭調査でも、においに拒否感を示す声は多く、県民の嗜好(しこう)に合致しているとみられる。

 和歌山市教委の担当者によると、「年1回あるかないか」だが、市内の小学校では納豆が給食に出されることもあるという。

https://www.iza.ne.jp/smp/kiji/life/news/200911/lif20091116040026-s1.html