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「テレワーク」「ワーケーション」……。新型コロナの影響で、働く場所を選ばないライフスタイルが広がった。企業が集まる大都市圏にこだわらない“地方シフト”も、一段と進む。

 千葉でも新潟でも、好きなほうを選んで働ける──。2020年にそんな制度を採り入れたのが、モバイルアプリ事業を手がけるIT企業「フラー」。社員100人ほどのうち、創業者はじめ全体の約3割が新潟県出身だ。東京都心から離れた首都圏の千葉県柏市と、地方都市である新潟市。オフィスを構える2拠点を同11月からは「本社」とし、従業員が移り住める制度も創設した。社命による人事異動でなく、あくまで本人の希望にもとづき、引っ越し費用などは会社が負担する。

「新潟は地方とはいえ田舎すぎず、ほどよいバランスが魅力。今後は、千葉と新潟の両方に家を持つことも検討中です」。千葉の拠点で働く同社のデザイナー、坂本郁さん(34)は言う。大学時代に旅行で訪ねた程度だった新潟に入社後、魅せられた一人だ。

 同社人事広報グループ長の川野晃太さんはこう説明する。

「グーグル、アップルなどの米大手IT企業は“職住近接”。先にライフスタイルがあり、そのなかにワーク(仕事)があるという考え方が浸透しています。生活と仕事を切り分けずに、むしろ融合させることは、業務のパフォーマンス向上にもつながる」

 地方シフトの波は他にも広がる。世界の茶葉を扱うルピシアは20年7月、本社機能を東京都心から北海道ニセコ町へ移転。ジャパネットホールディングスも21年冬をめどに主要機能を東京から福岡市へ、パソナグループも24年までに東京から兵庫県・淡路島へ本社機能を分散することを発表している。

 実際、人口の動きも変化している。東京都では転入者が転出者を上回る「転入超過」の状態(月別)が続いてきたが、20年5月には、13年7月以降初めて「転出超過」に。地方行政リーダーシップ研究会の代表理事を務める森民夫さん(71)は「コロナ・ショックを機に東京の“一人勝ち”状態に歯止めがかかり、地方での生活に人びとの目が向かい始めている」。

■副業で地方往来 短・中期滞在も

「ふるさと回帰支援センター」(東京)の相談も多くなっている。20年秋以降の相談件数は、過去最多だった19年の月平均を上回るペースだ。高橋公理事長(73)は「すでに住みたい地域を決めているなど、本気度が高い」と感じている。都心から電車で2時間圏内の北関東エリアなどが、利便性の高さから注目されているという。

「移住のような長期滞在だけではなく、『副業』を通じた短期・中期滞在など、今後は地方とのかかわり方にもバリエーションが生まれていく」

 こう指摘するのは、副業の認知促進に取り組む団体「ワークデザインラボ」の理事、石川貴志さん(42)だ。東京の出版・流通会社で働く石川さん自身、故郷・広島県の「創業サポーター」などを務める。

「地方で副業をする場合、例えば『日本酒』『温泉』など、自分の興味や関心を起点にプロジェクトを選ぶことができる。仲間ともつながりやすくなるのも魅力です」

 副業の収入は交通費程度の時もあるものの、「稼ぐという『結果』にとらわれず、自分は本業以外に何で稼げるのかを再確認する手段だと捉えてほしい」。

 みずほフィナンシャルグループやアサヒビール、JTBといった大手でも副業を認める動きが出ており、柔軟な働き方が広がりつつある。

 地方創生プロジェクトに取り組む慶応義塾大学の若新雄純特任准教授は話す。

「『地方』と言っても、実際にはグラデーションがあります。新型コロナの感染拡大を恐れて、都心部からの人の受け入れに敏感になっている自治体もある。ただ、人口10万人以上の都市は交通の便もよく、街にも溶け込みやすい。すぐに都心を離れるのではなく、地方都市と往来するスタイルが、フリーランスや起業家を中心に浸透するのでは」

 自分はこの先、どのように働き、過ごしていきたいのか。年初に考え直してみてはいかがだろう。(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日  2021年1月15日号

https://news.yahoo.co.jp/articles/6cbf66e7cf4b68fd52442299fbbdce3815b0cf12