「新たな利用状況では、これまでの『内部補助』によって成立してきたローカル線の維持が非常に難しくなっている」

 JR西日本の長谷川一明社長が2月の定例会見で、コロナ禍の鉄道経営にこう踏み込んだ。

 内部補助とは、採算のとれないローカル線の損失分を、利用者の多い都市部の黒字路線などの利益で補填することだ。長年、赤字ローカル線を維持してきた“どんぶり勘定”が、限界に来ていることを意味していた。

 長谷川社長は、本社のスリム化など組織の構造改革を進めるとともに、赤字ローカル線の存廃問題について沿線自治体と話し合いを急ぐ考えも示した。

 JR各社の業績は、新型コロナの影響で苦しむ。

 2021年3月期の純損益では、JR東日本が4500億円の赤字に、JR西日本が2400億円の赤字に、JR九州が284億円の赤字に、それぞれ陥りそうだと見込む。JR北海道は20年9月中間決算で149億円の赤字、JR四国も同中間で53億円の赤字を計上した。

 冒頭のJR西日本のように、さらなる経営の効率化は避けられない。鉄道各社の懸案だった赤字ローカル線の存廃が、コロナ禍で具体的に動きそうだ。

 本誌編集部は、JR各社が公表している19年度の線区別の利用状況を集計。1日1キロ当たりの平均通過人数を示す「輸送密度」が、1千人に満たない区間を調査した。

 財団法人運輸調査局の研究員などを歴任し、鉄道経営に詳しい流通経済大学の板谷和也教授は、輸送密度が8千人以上であれば「黒字路線」、おおむね4千人以下は「赤字路線」の可能性が高いという。あくまで、土産や弁当販売といった他の収益を除いた場合だ。

 今回調査した区間は、4千人よりもさらに少ない1千人未満を抜粋しており、「赤字路線」であることが濃厚だ。

 輸送密度が100人にも満たないところは8区間あった。中国地方にある芸備線の東城〜備後落合が11人で、輸送密度としては最小だった。只見線の会津川口〜只見が27人、花輪線の荒屋新町〜鹿角花輪が78人、陸羽東線の鳴子温泉〜最上が79人、芸備線の備中神代〜東城が81人、根室線の富良野〜新得が82人、久留里線の久留里〜上総亀山が85人、豊肥本線の宮地〜豊後竹田が96人……と続いた。

北海道や東北地方の内陸を結ぶ路線などが目立った。区間を確認してみると、山間部を走っているケースが多い。

 芸備線は、岡山県の備中神代駅と広島駅を結んでいる。このうち、広島県北東部にある東城から備後落合までの25.8キロの区間が輸送密度で11人だったことになる。本来であれば鉄道どころか、「タクシー会社も維持できない」(板谷さん)ほどだ。

 地方の鉄道経営が厳しくなったのは、自動車の普及や道路の整備で利用者が奪われ、少子高齢化によって沿線住民も減ったためだ。

 旧国鉄を分割民営化した1987年当初から、問題だった赤字路線の多くが先送りされた。とくにJR北海道、四国、九州の各社は赤字路線を多く抱え、「“自立”が無理だとわかっていた」と、神戸国際大学の中村智彦教授は指摘する。

 近年は、訪日外国人客(インバウンド)など観光客に注目されていたが、コロナ禍でこうした利用も激減。「沿線に温泉があったり、終点が観光地であったりするところはまだいいが、沿線に観光資源など何もないところは展望が見いだしにくい」(中村さん)

 赤字を垂れ流すローカル線が、別の黒字路線の利益によって維持されてきたのは前述した通りだ。

 しかし、赤字ローカル線の問題は、黒字路線からの内部補助が難しくなったというだけにとどまらない。

 鉄道会社として単年度の収益を安定させるのはもちろんのことだが、老朽化した設備の補修や更新など、鉄道事業ならではの必要な投資までもが食いつぶそうとしているのだ。

 例えば、熊本県にある旧国鉄の高森線。鉄道が通る南阿蘇村の渓谷にかかる第一白川橋梁(166メートル)は、16年に発生した熊本地震で橋脚を支える地盤が崩れ、橋の中央部が膨らむなど大きく損傷した。発生当時、橋は建設から約90年が経過していた。運営自体はすでに第三セクター方式で南阿蘇鉄道が引き継いでいたものの、総事業費約40億円を投じて新橋を建設しなければならなくなった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2015fa8f0b987efb5fa821cc80247501d6f09b0f?page=3
4/26(月) 9:00配信