飲食店のコロナ対策情報をグルメサイトで収集 政府の“密告”新制度に経営者ら反発 西村氏、撤回せず

 インターネットで飲食店の口コミ確認や予約に使われているグルメサイトを通じ、新型コロナの感染防止対策に適切に取り組んでいるか情報収集し、店に改善を求める制度の導入を政府が進めている。西村康稔経済再生担当相は15日、開始時期は未定としながらも、「都道府県と連携して進めていきたい」として撤回を否定した。飲食店の利用客からの「密告」を促すような内容のため、飲食店や有識者からは批判の声が上がっている。(原田晋也、畑間香織、皆川剛)
◆消毒や換気状況などをアンケート
 「市民からの密告で飲食店を取り締まろうとしている。撤回すべきだ」。15日の参院内閣委員会の閉会中審査で、田村智子氏(共産)はこの制度について迫った。だが、西村氏は「具体的な運用を進めている」として応じなかった。
 西村氏は2日の会見で、グルメサイトを通じて飲食店の感染防止対策の状況を調べる制度を打ち出した。具体的には、「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」の3つのサイトに国が設けるアンケートページへのリンクを掲載し、(1)手指消毒の呼び掛け(2)座席の距離(3)食事中以外のマスク着用呼び掛け(4)換気状況―などについて利用客に回答してもらう。グルメサイトに掲載されていない飲食店については、コールセンターで情報提供を受けるという。
 利用者が回答したアンケート結果はグルメサイトを通じて国が収集し、飲食店ごとにまとめられる。感染防止対策が不十分な飲食店に対しては、国と情報を共有する都道府県を通じて改善指導を行う。
◆「個人の主観」を政府がどう判断
 この制度に対して、東京都世田谷区で飲食店を営む男性は「幼稚な発想だ。書き込みは個人の主観で、指標にするのはどうかと思う」と批判する。回答の中には、ライバル店や悪意のある客からのものも想定され、政府などが正しく判断できるのかという懸念がある。その懸念について、西村氏は「具体的な運用方法の検討を進めている」と述べるにとどまった。
 飲食店に酒の提供をやめてもらうため、政府が金融機関や酒の販売業者などに出した要請は「脅し」「強権的だ」などと批判を受けて3件続けて撤回に追い込まれた。今回の制度もグルメサイトを通じて「監視」する仕組みともいえるが西村氏は15日の国会で「法的に強制力のある対策が取れず、有効な手段がない中で協力に応じていただける方法を考える」と正当性を強調した。
◆ぐるなび「政府の要請に協力」
 ぐるなびの広報担当者は「密告の手先になることに協力するのではなく、政府の要請に協力している」と回答。ホットペッパーグルメを運営するリクルートの広報は「詳細が決まっておらずコメントできない」と述べた。
 名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)の話 市民の不満を、コロナ対策で後手に回る政府に対してではなく、飲食店に向かわせる責任転嫁の政策だ。監視と密告を促し、社会に疑念と分断をもたらしかねない。

東京新聞 2021年7月16日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/117006