立憲民主党にとって、次期衆院選前の菅義偉(すが・よしひで)首相(自民党総裁)の退陣は誤算といえる。
首相を相手に新型コロナウイルス対応の転換を訴えて戦いたかったからだ。「菅首相か(立民代表の)枝野幸男首相か」を問うはずだった衆院選戦略は見直しを余儀なくされる。

「こうした状況を作った自民党全体に政権を運営する資格はない」

枝野氏は3日、国会内で記者団に、首相が「レームダック」化してコロナ禍に政治空白が生じると主張。これは自民の責任でもあると強調した。

立民は臨時の執行役員会を開き、幹部らが今後の政治日程について意見交換した。とはいえ、先行きは読めないままだ。
安住淳国対委員長は「29日に新総裁が決まるまで(政府・与党は)誰にも決定権がない。何も決められない政治が1カ月続く」と述べた。

与野党の間では、菅政権で衆院選が行われれば、立民が現有から50議席以上、上積みするという見方が強まっていた。政権交代を予想する声まであった。

ただ、それは枝野氏が首相候補として期待を集めたからではない。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が8月21、22両日に実施した合同世論調査で、次の首相にふさわしい政治家を尋ねたところ、枝野氏は4・3%にすぎない。
菅首相がさらに低い2・5%だったため、「枝野さんは菅さんが相手でラッキーだ」(立民幹部)といえる構図だった。
自民の河野太郎ワクチン担当相(17・9%)や石破茂元幹事長(15・5%)らには大きく水をあけられている。

菅内閣の支持率が下がっても自民党の政党支持率は堅調なため、首相(党総裁)の交代で自民が息を吹き返し、立民が衆院選で伸び悩む可能性がある。
だからこそ、立民内では1月のコロナ第3波で内閣支持率が急落して以降、「不人気の菅首相のうちに」と早期解散に追い込もうという姿勢が目立っていた。

立民は、衆院選の前哨戦となる4月の衆参3つの補欠選挙・再選挙で全勝した。
当時、党内には「全勝して菅首相が降ろされてしまったら大変だ」(中堅)と心配する議員もいた。

8月の横浜市長選では、菅首相のおひざ元で立民推薦の候補が大勝し、自民内で首相交代論が噴出した。
首相を事実上の退陣に追い込んだことは本来野党の戦果だが、立民ベテランは「今となっては勝ちすぎたということかもしれない」と自虐気味に語った。(田中一世)

https://news.yahoo.co.jp/articles/c449903b92cfdf4c5b6bf706668e1e1b491f0604