東京五輪・パラリンピックが閉幕し、1カ月が経った。競技施設は今後、「レガシー」として活用されるが、多くで年間維持費が収入を上回る「赤字収支」が見込まれ、埋め合わせには税金が使われ続ける。
想定外のコストが判明したケースや、運営のあり方がなお定まらない施設もある。(柴田秀並、伊藤嘉孝)

 東京都が巨額の整備費を投じて新設し、大会後も使う「恒久施設」は六つあるが、いずれも今後の維持費の負担は重い。

 使用料などの収入から維持費を差し引いた年間収支は、バレーボール会場だった有明アリーナ(年3億5600万円黒字)を除き全て赤字見通しで、5施設で計約10億円。
コロナ禍の影響も加えると、どこまで膨張するか見通せない。

 赤字額が最大なのは競泳の会場だ。豊洲市場から東に2・5キロ。臨海部のタワーマンション群を望む一角に整備された「東京アクアティクスセンター」は、年6億3800万円の赤字になると試算されている。

 その目と鼻の先。500メートルほど歩いたところには、北島康介選手が200メートル平泳ぎで世界新記録を出した「東京辰巳国際水泳場」があるが、
東京大会では水球にしか使われず、競泳では使われなかった。国際オリンピック委員会(IOC)が求める条件に席数などが足りなかったとされる。

 都は、二つ並んだ国際レベルの施設の用途が重ならぬよう、国際水泳場をアイスリンクに改修し、25年度に開業する方針だが、費用は約44億円と試算される。

 都は施設の赤字額について「スポーツ振興に向けた投資」と説明するが、「コンパクト五輪どころか、税負担のドミノだ」(大手シンクタンクのコンサルタント)といった厳しい見方も出ている。

 中には、想定外の経費が後から判明した施設もある。臨海部に303億円で整備されたカヌー会場「海の森水上競技場」は、年間1億5800万円と試算されていた赤字額がさらに膨らむ恐れがある。

 原因はカキ。波を和らげる装置に大量に付着し、重みで沈んでしまい、除去の費用が1億4千万円に上ったのだ。今後もカキの関連経費はかかることになる。
メンテナンス業者は取材に「カキの付着は当然なのに」と見通しの甘さを指摘した。

インフラ大手「打診が来ても検討すらしない」

 周辺を含め1569億円で整備された国立競技場は、そのあり方がなお定まらない。年間維持費は24億円とされ、国は運営権を民間に売る「コンセッション方式」を模索するが、
図面を示した意向調査はこれからで、先行きは不透明だ。

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