ロシア軍の攻撃にさらされるウクライナと国境を接する小国モルドバは、ウクライナと同様、長年親ロシア派と親欧米派の間で揺れ動いてきた。30年前には分離独立を宣言した親ロシア派との紛争が発生。モルドバがロシアの「次の標的」になりかねないという不安が市民の間で広がっている。
 ◇駐留ロシア兵の動向懸念
 モルドバの首都キシニョフ中心部にある公園。子供たちが駆け回り、大人は散歩や談笑をしている。どこにでもある日常の風景だが、心の中で戦争におびえる人は多い。
 ベンチで休んでいたプログラマーのヤノスさん(46)に隣国の事態をどう思うか尋ねると、「とても心配だ。北大西洋条約機構(NATO)非加盟のモルドバが次かもしれない」と浮かない顔で、「ロシア軍は(ウクライナ南部の)オデッサを制圧したら数日以内にここを攻撃する」と予想した。ヤノスさんにとっては、東部で親ロ派が独立国家を自称する「沿ドニエストル共和国」に駐留するロシア軍の動向も気掛かりだ。戦況を追いつつこれからどうするか思案している。
 旧ソ連圏のモルドバはソ連崩壊に伴い1991年に誕生したが、前年に分離独立を宣言した沿ドニエストル共和国と武力紛争に突入した。92年に停戦したものの、ロシアは平和維持を名目に約1500人の駐留軍を維持。ヤノスさんによれば、「ウクライナ後」はこの兵士がモルドバ攻撃に駆り出されるとのうわさも流れているという。
 ◇脱出に備え荷造り
 市内在住の30代女性と娘は、ウクライナ侵攻開始後に「モルドバも危ない」と感じ、脱出用の荷物をまとめた。今は様子見の状態だが、いつでも逃げられるよう荷物はそのまま。周囲の知り合いも多くが同じことをしていると話した。
 NGOで働く男性は「『住民の保護』を(モルドバ侵攻の)口実にするのではないか」と表情を曇らせた。キシニョフのロシア大使館が最近、「(他民族から)差別的待遇を受けた場合は連絡せよ」とモルドバのロシア系住民に通告したと報道されている。プーチン・ロシア大統領が「住民の保護」を名目にウクライナへの攻撃を開始したことを連想せざるを得ない情報だ。
 一方、こうした懸念を「過剰反応」と捉える向きもある。40代女性は、ウクライナで起きていることは「1割が真実、残りはうそ」と話した。皆が戦争を大げさに受け取り過ぎているとし、「(モルドバへの影響を)心配しても同じ。何事もないよう祈るだけよ」と語った。

時事通信 2022年03月25日07時10分
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