高騰する介護人材の紹介手数料「払っても1か月たたずに退社」...経営の重荷に〔読売新聞〕

 人手不足が深刻な介護現場で、職員の採用のために人材紹介会社に支払う手数料が高騰し、介護事業者の経営の重荷となっている。厚生労働省は、適正なサービスを提供する紹介会社を認定する制度を始めたが、踏み込み不足との指摘もある。



 高齢者向けのデイサービスや訪問介護を運営する「RARECREW(レアクル)」(東京都台東区)は2年半ほど前、紹介会社を通じて介護福祉士の男性1人を採用した。

 配置が義務づけられている「サービス提供責任者」になれる人を採用する必要があり、介護福祉士の資格を持つ男性に期待を寄せた。

 だが、男性は面接で話していた仕事への意欲が全く感じられず、1か月もたたずに退社。レアクルの担当者が話を聞くと、「もともと長く勤めるつもりはなかったが、面接では言わないよう紹介会社から助言された」と打ち明けた。レアクルが紹介会社に支払った紹介手数料は約90万円。早期離職時の規定で半額ほど返金されたが、残りは戻らなかった。

 レアクルが紹介会社を通じて採用した職員は半年以内に辞めてしまう人が多かったという。今はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで仕事の様子を発信することで自社の認知度アップを図り、人材獲得につなげようとしている。

 レアクルの日下部竜太代表は、「職員の処遇改善に使えるはずの利益が流出してしまう。会社の理念や社風を理解することなく、資格があるというだけで紹介されることが多く、定着につながらない。事業者にとっても働く側にとっても不幸だ」と嘆く。

■1人平均49・5万円

 全国介護事業者連盟などが介護施設を経営する約400の法人を対象に昨年8〜9月に行ったアンケートによると、紹介会社に支払った手数料は介護職1人あたりの平均で49万5000円だった。手数料は年収に一定の割合をかけて決まることが多く、職員の給与が相対的に高い傾向にある大企業の介護付き有料老人ホームに限ると、1人あたり66万6000円に上る。

 介護保険制度では、施設の人員の配置基準が決まっている。利用者の生活を支えるサービスであるため、一時的に休業するわけにもいかず、欠員があればすぐに補充する必要に迫られる。大阪府内の特別養護老人ホームの施設長は「(紹介会社を)使いたくないのに使わざるを得ない。足元を見られている状況」とため息をつく。

■「お祝い金」で転職

 人材紹介を巡っては、新たな職場に就職した時の「お祝い金」で求職者を募り、転職を勧めて繰り返し手数料を得る行為も問題視されている。厚労省は昨年4月、職業安定法の指針を改正し、「就職お祝い金」を禁止した。ただ、罰則規定はなく、「お祝い金で求職者を呼び寄せている紹介会社は今も少なくない」(介護事業者)という。


 人材紹介料は、民間同士の契約のため「紹介料自体に上限を設けるのは難しい」(厚労省)という。そこで、厚労省は昨年度、介護・医療・保育の3分野の紹介事業者のサービスについて基準を策定。手数料の公表や、苦情窓口の設置を求めた。今年度から基準にあてはまる紹介事業者を認定する制度を始めた。

 認定を取得した人材紹介会社の「エス・エム・エス」(東京都港区)は、分野別に専門の担当者を育成し、求職者が求める働き方に合った事業者を紹介できるようマッチングを行っているという。担当者は「介護現場は仕事の内容や勤務時間が施設によって異なる。個別の事業所の雰囲気や職場環境を知り、求職者に合った職場を案内して、定着につながるようサービスの質を高めていきたい」と話す。

 ただ、人材紹介業は大規模な設備投資などがいらず、参入のハードルが低い。中小まで含めると3分野で1000社を超えると言われるが、認定事業者は35社にとどまっている。「認定を受けた会社だけで人材を確保できるとは限らない。悪質業者を公表する仕組みを作ってほしい」(全国介護事業者連盟の斉藤正行理事長)との声もあがっている。

 淑徳大学の結城康博教授(社会保障論)は「介護事業者の収入の多くは介護保険料など公的なお金でまかなわれており、紹介会社に高額な手数料が流れる現状は見直されるべきだ。紹介会社のサービスの質が担保できる規制も必要ではないか」と指摘している。

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