安倍晋三元首相を失った自民党・岸田政権はこれからどうなるのか。
ジャーナリストの鮫島浩さんは「安倍氏の『盟友』とされる麻生氏が権力の中心になる。安倍氏の悲願である憲法改正はトーンダウンし、岸田首相は消費増税を進めるだろう」という――。

(中略)

■安倍派をしのぐ「大宏池会」の夢

 霞が関の秩序もガラリと変わった。安倍政権は霞が関の主流であった財務省や外務省を首相官邸から遠ざけ、傍流とされてきた経産省や警察庁を重用した。
財務省はこの間、麻生氏を前面に押し立てて官邸からの風圧をしのぎ、紆余曲折をたどりながらも消費税増税を二度実現させた。

 安倍政権から菅政権にかけて財務相を9年近くも務めて「財務省の用心棒」となった麻生氏が後ろ盾となる岸田政権が誕生して財務省は完全復権。
官房副長官には岸田派ホープで財務省出身の木原誠二氏が就任し、主要官庁から送り込まれる首相秘書官(事務)6人にうち財務官僚が2人を占めるという異例の財務省支配が確立した。
そもそも岸田派(宏池会)は池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら財務省(旧大蔵省)OBを中心に受け継がれてきたハト派の老舗派閥であり、財務省と親和性が極めて高い。

 麻生氏には野望がある。祖父・吉田茂の直系である池田勇人が創設した老舗派閥・宏池会を源流とする麻生派、岸田派、谷垣グループを再結集して「大宏池会」を再興し、
清和会(安倍派)をしのぐ最大派閥として日本政界に君臨することだ。小泉政権以降の清和会支配に終止符を打ち、宏池会時代を打ち立てる麻生氏の野望を安倍氏が気前よく受け入れるはずはない。

■向かうところ敵なし

 麻生氏は慎重に事を運んだ。参院選前に安倍氏との党内抗争が勃発して自民党が議席を減らせば元も子もない。
そこで参院選までは安倍氏の顔を立て、その持論である憲法改正や防衛費増額を前面に掲げて党内融和に腐心した。
しかし参院選が終わった後の党役員・内閣改造人事では清和会の福田氏を財務相に抜擢するなどして安倍氏の影響力をさらにそぎ、二大巨頭の最終決戦にケリをつける――そう腹を固めていた。

 その矢先、安倍氏が予期せぬ凶弾に倒れた。二大巨頭の一方が突然消え失せ、麻生氏は党内闘争を仕掛けることなく唯一のキングメーカーとして君臨することになったのだ。
自民党は参院選に圧勝。安倍氏亡き今、向かうところ敵なしである。

 「麻生氏は安倍氏を手厚く国葬して安倍支持層へ礼節を尽くすでしょうが、その後は安倍色の強い政治家や官僚を一掃して麻生体制を盤石にしていくでしょう。
国葬はそのためにも必要な通過儀礼です。安倍氏を失った清和会が分裂の危機を迎え、大宏池会の再興に待ったをかける力はありません。
政界、財界、官界、マスコミ界の麻生詣では激しくなるでしょう」(宏池会関係者)

 麻生氏が政局では大宏池会の再興に突き進むとして、国民にとって重要なのはキングメーカーとなった麻生氏がどんな政策を推し進めるかだ。

■安倍氏の悲願、憲法改正には消極的

 参院選で自民、公明、日本維新の会、国民民主党の改憲4党が発議に必要な3分の2を確保した以上、安倍氏の悲願である憲法改正に突き進むのか――。
実は麻生氏や岸田首相に近い宏池会や財務省からはそのような声はほとんど聞こえてこない。

 「2025年まで国政選挙が予定されていない『黄金の3年間』に入ります。せっかくの時期に憲法改正に手をつけると、
岸田政権は全エネルギーを改憲4党で具体的な改憲案を合意することに注いで消耗するでしょう。発議に持ち込めても国民投票で勝つ保証はない。
国民投票で否決されたら内閣総辞職は避けられません。そのようなリスクを背負い、改憲の成否と心中するつもりは麻生氏にも岸田首相にもありませんよ」(財務省OB)

 参院選で改憲を掲げたのは安倍氏の顔を立てたにすぎない。もはやその必要がない以上、「黄金の3年間」を改憲論議に費消するのはもったいない――というわけだ。

(全文はソースにて)
https://news.yahoo.co.jp/articles/38bc10a637c6b60a7c1a2187ee1a0cded91035b6?page=1