葉梨康弘法相は11日夕に辞表を提出した後、報道陣に「法務省でいろいろと実現したい政策課題があった」と無念さをにじませた。法相就任前には、副法相や衆院法務委員長を務め、法務行政の政策通として知られていた。法務省は現在、重要法案をいくつも抱えており、法務官僚が葉梨氏に寄せた期待は大きく、今回の更迭を「打撃」と受け止める声もある。

 特に法務官僚が懸念するのは、入管施設の長期収容問題を解消するための入管法改正案の再提出だ。不法滞在者を強制送還するまで施設に収容するという原則を見直して施設外で生活できる「監理措置」の導入や、条約上の難民に当たらない外国人を保護する制度の創設を盛り込んでいた。改正案は2021年の通常国会に提出したが、名古屋出入国在留管理局で収容中の女性が死亡した問題で、野党からの反発を受けて廃案になった経緯がある。

 同省の外局である出入国在留管理庁は、一時は今臨時国会への法案再提出を目指していたが、葉梨氏が8月に法相に就任すると「現状のままでは理解が得られない」として、入管庁に修正を指示していた。このため、臨時国会への法案提出を見送ったが、葉梨氏は修正作業に積極的に関わり、周辺にも「来年の通常国会に提出できるようにしたい」などと意欲を示していたという。

 ある法務省幹部は「通常国会に再提出できたとしても、一度は廃案になった法案だけに、激しい議論の応酬になることも予想される。葉梨氏の改正案に対する理解は日に日に深まっていたと感じていたし、自分で法改正を成し遂げるつもりでいたはずだ。それだけに、このタイミングでの法相交代は痛い」と話し、改正案を含めた法務行政の停滞を懸念した。【山本将克】

毎日新聞 2022/11/11 19:51
https://mainichi.jp/articles/20221111/k00/00m/010/277000c