政府は22日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開き、脱炭素社会の実現に向けた基本方針をまとめた。原子力について「将来にわたって持続的に活用する」と明記した。廃止が決まった原子力発電所を建て替え、運転期間も現在の最長60年から延長する。東日本大震災以来「原発の建て替えを想定しない」としてきた政策を転換するが、実現には課題が多く実行力が問われる。

岸田文雄首相は会合で「法案を次期通常国会に提出すべく、幅広く意見を聞くプロセスを進めていく」と述べた。パブリックコメントを経て2023年2月までに閣議決定し、政府の正式な方針にしたうえで法案提出をめざす。

方針では再生可能エネルギーと原子力について「安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と記載した。50年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標と電力の安定供給の両立につなげる。原発については「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と掲げ、「まずは廃止を決定した原発の建て替えを対象に具体化を進めていく」と記した。

運転期間の延長については原則40年、最長60年とする制限を維持したうえで「一定の停止期間に限り、追加の延長を認める」と盛った。原子力規制委員会による安全審査を前提に震災後の審査で停止していた期間などの分を延長する。認められれば60年超の運転が可能になる。

政府は11年の東京電力福島第1原発事故を受け、原発の新増設や建て替えは「想定していない」との見解を示してきた。原則40年、最長60年とする運転期間も導入した。今回の基本方針で見直すことになる。

原子力政策を巡っては進展していない課題が多い。例えば原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は最終処分場が決まっていない。「バックエンド」と呼ばれる問題で、解決できなければ原発を長期に使っていくのは難しい。首相は22日の会議で「最終処分につながるよう関係閣僚会議を拡充する。政府をあげてバックエンドの問題に取り組んでいく」と述べた。

基本方針に沿って進展するかは見通せない。関西電力美浜原発などが建て替えの候補地とみられているが、政府は具体的な候補地は示していない。建設費用は1兆円規模ともされ、多額の投資費用を回収する見込みがなければ電力会社は建設を決めにくい。

政府は必要な事業環境の整備を進める考えだが、新たな支援策を講じた場合に国の理解が得られるかは不透明だ。運転期間の延長が、建て替え判断の先送りにつながるとの指摘もある。

33基ある原発のうち14基は再稼働済みか再稼働のメドが立っている。一方、安全審査に合格したものの地元の同意が得られていない原発3基を含む19基は再稼働の見込みが立たない。

政府は30年度の温暖化ガス排出量を13年度比で46%削減する目標を掲げ、30年度時点の発電量に占める原発の比率を20~22%に引き上げることをめざしている。30基近くの稼働が必要で、このままでは達成できない。当面の電力の安定供給と脱炭素化に貢献する既存の原発さえ十分に活用できていない状況だ。

日本経済新聞 2022年12月22日 16:22
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA221FX0S2A221C2000000/