不動産業界がけん引する中国の経済成長モデルが終焉しゅうえんを迎えた。中国恒大こうだい集団に続き、業界の優等生とされてきた大手の碧桂園へきけいえんも赤字が拡大し、デフォルト(債務不履行)の危機にある。再建は難航が予想され、中国経済の長期停滞を招く恐れがある。(天津・石井宏樹、北京・白山泉)
◆建設が止まったマンションが2億平方メートルも
 天津市の郊外にある碧桂園のマンション建設現場。米誌「フォーチュン」による世界のトップ500企業に選ばれたとアピールする看板の奥で、コンクリートむき出しの建物が放置されていた。不動産業者は「碧桂園の物件は質が高くて売れ行きも良く、新型コロナウイルス禍でも引き渡しが続いてきた。しかし最近の資金難で工事が止まった」と説明した。

 近隣にある別のマンション建設現場は「数カ月前に基礎工事が始まった」(周辺住民)というが、小型ショベルカーは動いていない。下請け業者の作業員は「数日前に工事を停止するよう通知が出た」と明かし、「工事が止まり、臨時工は現場からいなくなった」と険しい表情を浮かべた。昨年夏の時点で、こうした未完成マンションの床面積は業界全体で計2億3000万平方メートルに上るとの研究もある。
 7月末には「夜逃げを準備している」といううわさも広まった。碧桂園創業者の次女、楊恵姸ようけいけん会長が、約1200億円相当の関連会社の株を親族が立ち上げた香港の公益財団に寄付すると発表したためだ。
◆ゼロコロナに不動産投資規制で急失速
  8月には、2250万米ドル(約33億円)の外債の利払い遅延が報じられた。楊氏は資金調達が難しい状況にあると認め、「創業以来最大の困難に直面している」と謝罪。無秩序な拡大で破綻した恒大と異なり、碧桂園は不動産事業に専念する優等生とされてきただけに、業界全体の経営状況への不安が広がった。

 業界の窮状のきっかけは習近平指導部の政策だ。2020年夏には不動産投機の過熱を引き締める政策の一環で、不動産大手の財務状況の監視を強化して資金調達の規制を強めた。さらに人の移動を制限する厳しい防疫措置「ゼロコロナ」政策が加わり、銀行関係者は「供給と需要の両方にたがをはめた」と指摘する。
 結果として不動産市況が低迷し、同社の1〜6月期決算は建設中や販売前の物件の評価減などによって1兆円近い赤字だった。6月の販売契約額は前年同月の半分以下だ。同社関係者は「人々が住宅を買わなくなったことで銀行が融資を渋り、社債返済の資金を借りられなくなった」と話す。
◆「不動産業界は使命を終えた」…今後は重荷に
 業界大手、碧桂園がデフォルトに陥れば影響は計り知れない。天津のマンション建設現場近くの不動産業者は「建材や内装など下請け企業や労働者も多い」と政府の救済策を期待する。
 中国人民銀行などは不動産市場安定のため、融資返済の延長など16項目の金融措置を来年末まで延長した。中国政府は未完成マンションの引き渡しを最優先課題に掲げるが、恒大が昨年に引き渡した住宅は目標の半分の30万戸にとどまる。
 碧桂園の関係者は「中国のほとんどの都市はすでに発展を遂げ、不動産建設は完成している。不動産業界は一つの使命を終えた」と話す。しかし不動産業界は産業の裾野が広く、国内総生産(GDP)の3割を占める。過剰投資の整理など問題の処理はこの先、中国経済の重荷になりそうだ。

東京新聞 2023年9月2日 06時00
https://www.tokyo-np.co.jp/article/274204