ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年が経つが、いまも両国間での激しい戦闘が続いている。プーチンが暴挙に出つづける本当の理由を理解するにはロシアという国の背景を知る必要がある。

『ロシア全史:帝国とその敵国』(未邦訳)を刊行したフランスのジャーナリスト、フランソワ・レナートがロシアの迷走の根本的な要因について仏「レクスプレス」誌に語った。

●ロシアを特徴づける「膨張主義」
ロシアの膨張主義を理解したいなら、まずは地図を見るべきです。ロシアの子供たちは地図を見ると、世界一大きな国であることを誇りに思う一方、不安にも駆られます。こんなに広大な領土はとても守りきれないのではないかと考えるのです。

ロシアでは、16世紀に領土を広げたイヴァン雷帝の時代から、「防衛的膨張主義」がよく見られます。同国には自分たちを守る山や海や大河がありません。だから領土を広げると、そこを守るために、さらにその先の土地も征服しなければならないと感じてしまうのです。

プーチンが2016年のロシア地理学協会のイベントで口にした冗談がわかりやすいです。彼は、9歳の小学生に「ロシアの国境はどこにあるかわかるかい?」と質問しました。その子は授業で学んだとおり、「北東部はベーリング海峡まで」と答えました。それに対し、プーチンはこう言ったのです。「間違いですね。ロシアの国境はどこまでも広がるのです」

●自らが「世界を救う存在」だと信じている

──ロシアの歴史には、メシア思想の影響もつねにあるとのことですが、どんな背景があるのでしょう。

西洋ではあまり知られていませんが、ロシアには「第3のローマ」という神話があります。西洋人にとって、ローマは聖ペトロの唯一の後継者である教皇がいる場所であり、キリストまで遡れる伝統の中心地です。カトリック教会が提示する歴史観です。

一方、正教会では、キリスト教の中心地は最初はエルサレムにあり、それからコンスタンティノープルに移ったと考えられています。ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の首都である同都市が15世紀にオスマン・トルコに滅亡させられてからは、モスクワにキリスト教の中心地が移りました。最後のビザンツ帝国皇帝の姪と結婚したモスクワ大公に、帝国の王権を象徴するレガリアが譲られたのです。

こうした背景から、モスクワ大公がローマ皇帝の称号・カエサルに由来する「ツァーリ」を自称し、モスクワを第3のローマと呼ぶようになりました。16世紀前半には、ある僧侶がモスクワこそが最後のローマであり、それが崩壊したら世界は終わりを迎えるという終末論を語り出したのです。それゆえ、モスクワ大公国とツァーリの天命は「世界を救う」ことになりました。

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2024/02/24
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