攻撃性が強く、刺されると激しい痛みが生じ、死に至る危険性もある南米原産の特定外来生物「ヒアリ」が兵庫県の神戸港で発見されたことを受け、農業関係者も警戒感を強めている。米国では刺された家畜が死ぬケースもある他、台湾でも農家が刺される被害が相次ぐ。農地や牧場に広がれば農作業にも危険が伴うため、国内に定着させない対策が求められる。

 神戸市は20日、神戸港(ポートアイランド)のコンテナヤードでヒアリが発見されたことを受け、海を隔てて隣接する六甲アイランド(同市)でヒアリがいないか調査し防除活動を行った。六甲アイランドには、ポートアイランド同様、南沙港(中国・広州市)からの貨物が届くコンテナヤードがあるためだ。市職員ら約20人が3カ所に分かれ、目視確認の他、殺虫剤を散布。ヒアリと疑われる個体を採取した。

 コンテナでヒアリが発見された同県尼崎市の港湾部から約6キロ離れた地域で水田70アールを営む、同市の松本三千男さん(81)は「万一、ヒアリが入ってくれば大変。不安でならない」と話す。

 JA兵庫六甲も「神戸港からは海が間にあるため、すぐに入ってくるとは考えられない」とみるが、「入ったら大変なことになる」との認識を持つ。現在、JAに発生や被害の報告はない。

 神戸市危機管理室によると、ヒアリ関連の電話相談は19日現在、約40件あった。内容は刺された場合や発見時の対処法で、農業に関するものはなかったという。

 ヒアリが発見されたと環境省が発表したのは今月13日。同省によると5月26日、南沙港から運ばれたコンテナが置かれていた尼崎市で、国内で初めて確認された。

 同市に置かれる前に一時保管されていたポートアイランドのコンテナヤード付近では、アスファルトの複数の割れ目から100匹程度を確認。18日、ヒアリと分かった。
港湾125カ所 調査を要請 国交省
 中国・広州市からの工業製品を積んだ荷からヒアリが発見されたことを受け、国土交通省は19日、国内の主要港湾125カ所を管理する各自治体などに、ヒアリがいないかどうか調査を要請した。発見したら同省と環境省に通報するよう求めた。

 環境省は「米国では農地や牧草地でも巣を作っており、日本に侵入した場合、農地などで適応していく可能性がある」(外来生物対策室)と指摘する。米国では家畜が刺されて死んだ事例もあるという。ヒアリを見つけたら「踏んだり巣を壊したりせず、市役所や地方環境事務所に連絡を」(同)としている。

 アリに詳しい金沢大学の大河原恭祐准教授は「ヒアリは女王アリをたくさん産み、たくさんのアリ塚を作る習性がある。もし、刺されたらすぐに病院で受診してほしい」と呼び掛ける。
台湾 拡大止まらず
 台湾では、ヒアリの生息拡大が止まらない。侵入が初めて報告された2003年10月以降、生息地域を広げ、今年4月には全20市・県の半分まで拡大している。政府は撲滅に向け防除を進めているが、植木用や建築用の土の移動などで広がり、歯止めがかからない。

 台湾動植物防疫検疫局によると侵入当時、最も多く見つかったのが桃園国際空港のある桃園県(現・桃園市)。今年4月の調査では交通網が発達した西側を中心に拡大し、台南市でも見つかった。農地や街路樹、居住環境、公園緑地など多様な地域に広がっている。

 同局は「発生が広範囲に広がり、集中防除だけでは撲滅が難しい。国民全体の防除意識を高める必要がある」と話す。

 中国でも05年、初めてヒアリの侵入報告があった。現在は広東省や広西壮族自治区、湖南省などに広がっている。

<ことば> ヒアリ

 体長2.5〜6.0ミリで、体は赤茶色、腹は黒っぽい赤色。南米中部原産で米国、中国、台湾、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどに侵入している。日本の在来種は大きなアリ塚を作らないが、ヒアリはドーム状のアリ塚を作る。

 漢字で「火蟻」と表され、攻撃性が強く尻の毒針で外敵を刺すことがある。刺されるとやけどのような激しい痛みが生じる。呼吸困難などアナフィラキシーショックを起こす恐れがあり、世界各地で問題になっている。(前田大介、金哲洙)
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