ウォーキングやジョギングなど適度の運動が認知症の予防に効果がある―-。
多くの健康記事ではそう書かれてきたし、そう信じて毎朝早歩きにいそしんでいる人は多いだろう。
実際、世界保健機関(WHO)でも認知症を含む生活習慣病予防のために、2012年に「成人(18〜64歳)は週に2時間半以上の中程度以上の運動をするべきだ」と推奨。
世界に呼びかけている。

ところが「運動すると認知症は防げる」は間違いだった。
実は、認知症になる人は身体活動量が減るので、統計上そう見えるだけで、
まったく影響はないという実もふたもない研究がまとまった。

■ 「ウォーキングで脳が活性化」はウソだった?

この研究をまとめたのは英ロンドン大学と、仏のサクレ大学、ボルドー大学などの国際共同チームだ。
英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」(電子版)の2017年6月22日号に発表した。

ウォーキングなどの運動が認知症予防にいいという研究は数多くあり、たとえば、米ボストン大が米精神医学誌「JINS」の2015年11月19日号に発表した研究では、18〜31歳の若者29人と55〜82歳の中高年者31人を対象に実験を行った。
参加者は腕時計タイプの活動量計をつけ、1日の歩数、歩行速度、歩行時間を測り、認知能力のテストを受けた。

その結果、若者グループは歩数による認知能力の差はほとんどなかったが、中高年グループでははっきりと差が出て、歩数が多いほどテストの成績がよくなった。
特に記憶力での影響に大きな差が出た。

同大のスコット・ヘイズ教授は「高齢者では、ウォーキングが記憶力の向上にいい影響を与えることが確認できました。
重要なのは、運動習慣がどんな認知症の治療薬よりまさる特効薬だということです」と語った。
一方で、認知症患者の6割を占めるアルツハイマー型認知症は治療方法がまだ見つかっておらず、原因も諸説あるのが現実だ。

ところが、「BMJ」誌の論文によると、こうした過去の研究の多くが
(1)短期間でしか認知症の運動効果を調査しておらず、数十年にわたる長期的な影響を考慮していない
(2)健康な人間しか対象にしておらず、認知症患者の実態からかけ離れている、という大きく2つの欠点を持っているという。

研究チームは、英国の公務員の長期間にわたる健康データを対象に選んだ。
1985年の調査開始時点で35〜55歳の1万308人を最大27年間にわたり、追跡調査した。

調査期間中に4回にわたり全員の認知症検診を行ない、また認知力のテストも行なった。
そして、7回にわたって身体活動(運動)のアンケート調査を行なった。

■ 認知症になる人は9年前から運動量が減る

ひとりひとりの運動内容も次のように詳しく聞いた。

(1)軽度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、除草、掃除、料理・洗濯など一般家事、自転車修理など。
(2)適度に活力がある中程度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、ダンス、サイクリング、ゆっくりの水泳、ウォーキングなど。
(3)非常に活発な高強度の運動を週にどのくらい行っているか。たとえば、ランニング、水泳、スカッシュ、サッカーなど。

その結果、調査期間中に329人(3.2%)が認知症を発症した(診断時の平均年齢は75歳)。
その人たちと運動量を比較すると、運動の強さと認知症の発症リスクにまったく関連がみられなかった。

盛んに運動をしていたから認知症にならなかった、あるいは、ほとんど運動しなかったから認知症になったという因果関係はなかったという。
特に研究チームは、WHOが推奨する「週に2時間半以上の中〜高強度の運動」を基準に、対象者をそれ以上の運動をする人と、それ以下の運動しかしない人に分けて比較したが、発症リスクに関連がなかった。
WHOの推奨どおりに運動しても認知症の予防にはつながらないというのだ。

研究チームは、27年間もの長期間追跡する過程で重大な発見をした。
それは、認知症を発症する人は、認知症と診断された時点より少なくとも9年前から身体活動量が低くなることだった。

それまで、週に2〜3時間「中程度」「高強度」の運動ができた人が、平均で39分〜1時間ほど運動時間が減り始め、どんどん運動時間が少なくなるという。
従来は、認知症になる1〜2年前くらいから運動量が減ると思われてきた。このことから研究チームでは、論文の結論でこうコメントしている。

https://www.j-cast.com/healthcare/2017/07/12302987.html
https://www.j-cast.com/healthcare/2017/07/12302987.html?p=2

※続きます