長崎県新上五島町で2014年1月にいじめを受けて自殺した町立奈良尾中3年の松竹景虎(まつたけかげとら)さん(当時15歳)の両親が町と県に6253万円の損害賠償を求めて長崎地裁で係争中の訴訟が和解する見通しとなった。
町議会が8日の臨時議会で両親との和解に関する町提出の議案を可決した。いじめが原因で自殺したことや教職員がいじめ防止措置を怠ったことなどを町側が認めた上で謝罪し、和解金4000万円を支払う内容で、両親も和解に応じる方針。

町が設置した第三者委員会は昨年1月、松竹さんが同級生から「死ね」といった悪口を繰り返し言われるなどの過酷ないじめを受け続けたことが原因で自殺したとの報告書を町に提出し、両親が同8月に提訴した。
町は松竹さんがいじめが原因で自殺したことや、教職員がいじめに気付かず安全配慮義務に違反したことを認め、地裁が和解勧告していた。

和解条項には、町が第三者委の報告書を最大限尊重し、この事案を題材にした研修など、報告書で提言されている再発防止策の実施状況を年1回公表することも盛り込まれた。
松竹さんの父裕之さん(53)は「町や町教委、学校はこれまで私たちを裏切り続けてきた。すべての手続きが終わった後、息子の仏壇の前で謝罪してほしい」と話した。

 ◇悪口・無視も防ぐ責任

中学3年の松竹景虎さんが受けたいじめは殴る、蹴るなどの暴力ではなく、悪口や無視などだったが、弁護団によると、町が支払うことになった和解金4000万円は過去のいじめ自殺訴訟の和解金より高水準となった。
このことは悪口や無視などであっても人を死に追い込む重大ないじめであり、学校や行政にはそれを防ぐ重い責任が課せられていることを示している。

松竹さんが通っていたのは離島の小規模校で教師の目が届きにくい環境ではなかった。しかし、松竹さんは3年になってから同級生から悪口や無視などのいじめを繰り返し受け、孤立感を深めていった。
夏休みにはいじめを題材にした作文を書くなどして「SOS」を出していたが、学校側は気付かなかった。

和解条項には「すべての教室にいじめがあり得ることを前提に、いじめ見逃しゼロを目指す」ことなどを提言した第三者委員会の報告書を町が最大限尊重することも盛り込まれた。
松竹さんの死から3年がたった今も、いじめが原因と疑われる子供の自殺は各地で後を絶たない。

苦渋の思いで和解を受け入れた両親の願いは、和解の意味を社会全体がかみしめ、息子の苦しみ、親の絶望を他の誰にも味わわせないことだ。【樋口岳大】

配信 8/9(水) 7:30配信
毎日新聞
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