https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170916-00000521-san-sctch

ストレートか水割りか? 長らく酒場での議論だったウイスキー論争だが、
水による希釈がウイスキーの味わいを引き立てることが科学的に明らかになった。
英科学誌のサイエンティフィック・リポーツ(電子版)に掲載された。

水を加えるのは邪道という意見も多いが、一部の愛好家は、ストレートで飲む場合にも
味わいを際立たせるために水を数滴垂らすという。経験則によるのだろうが、これらの
科学的な理由がよく分かっていなかった。

ウイスキーは、水とアルコール(エタノール)の2大成分に、焦がした樽から取り込まれる
「グアイアコール」やそれに類似した香り成分が混ざっている。グアイアコールは
論文では英国の「プルーモ・ベイリー」というせき止め薬にも入っていると紹介されているが、
日本の胃腸薬「正露丸」にも多く含まれる高分子化合物で、水にも油にも溶けやすい
性質を持っている。

スウェーデンのリネウス大のB・C・G・カールソン氏らは、これらの分子の動きを
コンピューターシミュレーションで再現し、グアイアコールが水やエタノールとどのように
関係しているかを調べた。その結果、アルコール濃度の変化によって振る舞いが変わり、
濃度が59%以上ではグアイアコールはエタノール分子に包囲されているが、
45%以下では外側に出てくることが分かった。

■希釈で香りを開放

ウイスキーは、製造工程の蒸留時には60%ほどのアルコール度数になり、木樽に入れて
寝かされるが、商品化のためボトルに詰めるときには水で40%ほどに希釈して詰められる。
風味を取り込む際には高いアルコール度が利用され、飲むときには希釈して開放するという
合理的なことが行われていることが、科学的にも証明された。

濃度が薄まると、水やエタノールよりもサイズの大きなグアイアコールの分子が水面や
下の方向に集まる。ウイスキーに限らないが、口にするときは水面を飲むため、より香りが
引き立つとしている。

論文はアルコール濃度が45%と27%の中間はデータを示していないので不明だが、
グラフを見ると45%より27%の方がさらに水面に集まっているようにも見える。ストレートに
水を加えると、安定した状態に何らかの刺激を与えるとみられ、“水割り派”や“数滴派”に
加勢することになりそうだ。

■プロのブレンダーも水で…

ただし、最初の一口はうまいとしても、表面をすすったあとは出がらしになりそうな気もする…
というのは野暮か。また、ウイスキーの匂いを構成する物質はグアイアコールだけでもないので、
この論文だけで究極の飲み方と決めつけるのも乱暴だ。論文によるとグアイアコールは、
同じウイスキーでも、アメリカやアイルランド製よりもスコッチに多く含まれているという。

なお、ウイスキー大手のサントリーによると、技術者であるブレンダーもテイスティングの際、
60%程度の原酒に水を加えて20%程度にするという。アルコールの刺激が弱まると香りを
嗅ぎやすくなり、経験上、溶けている香りも出てくるという。

では、消費者はバーで水を加えるべきなのかどうなのか−。サントリーは、40%程度の
商品に対しても「水を加えると閉じ籠もっている香りが出て、特徴を感じやすくなる」としながらも、
「水の量をいろいろ変えて気分やシーンにあわせた楽しみ方をしていただきたい」とのこと。
ストレート、水割り、ロック、ハイボール、お湯割り、トワイスアップ(2倍割り)…これだけ飲み方が
広がったのも諸先輩の経験のなせるわざ。今回の論文を、違う飲み方を知るきっかけにしてみたい。