■事前対策及び事故当日の状況に関する事実情報(報告書第3章)

(1)事前対策に関する情報〈主なポイント〉
  @大川小学校における災害への備え
    震災当時の大川小学校における災害対応マニュアルには、一部に津波に関する記述が加え
    られていたが、津波を想定した避難行動や三次避難場所の検討等はなされなかった。校庭か
    らの避難先である三次避難場所は、地震を想定した平成19年度のマニュアルの記載(近隣
    の空き地・公園等)がそのまま踏襲されていた。マニュアルには児童引渡しのルール等が記
    載されていたが、保護者に対する周知は行われておらず、引渡しの仕組みは未完成のままだ
    った。また、津波を想定した避難訓練や児童引渡し訓練は行われていなかった。
  A地域における災害への備え
    石巻市の地域防災計画では、宮城県の「第三次地震被害想定調査」に示された宮城県沖(連
    動)を想定地震とし、この想定に基づいた津波浸水予測図を用いてハザードマップが作成さ
    れ、市民等に配布されていた。大川小学校は、津波の予想浸水域から外れており、津波の際
    の避難所となっていた。
  B学校及び周辺の状況と地域の歴史
    大川小学校の立地・校舎設計に際しては、洪水や津波は想定されていなかった。
    大川地区では、明治三陸地震、昭和三陸地震において、長面など沿岸部で津波被害の記録
    がある。大川小学校では、事故の約1年前のチリ地震による津波警報(大津波)発表時に避
    難所が開設され、事故2日前の地震の際には児童・教職員が校庭へ避難した。これらの機会
    に教職員間で地震・津波の際の対応が話題となった。
  C教職員の知識・経験等
    震災当時の大川小学校の教職員の中には、近年、学校防災・安全に関する研修会などに参
    加した者、過去に他校で津波防災対策に取り組んだ経験を持つ者がいた。13名の教職員の
    うち、同校における勤続年数2年未満が8人を占めていた。
    過去に在籍した教職員へのアンケート調査からは、全教職員が災害対応マニュアルの内容
    を把握した状況ではなかったこと、マニュアルや訓練の想定は地震、火災、不審者侵入が中
    心だったこと、大多数の教職員は津波の心配をしてなかったことなどの結果が得られた。
  D学校経営・職場管理等の状況
    平成22年度の大川小学校教育計画では、目指す教師像として組織体と協働体制が強調さ
    れていた。また目指す児童像の一つである「たくましい子ども」に関連して、安全に行動で
    きる能力・態度をはぐくむ際に重視されていたのは、交通事故への対応・訓練、不審者対応
    であった。
    大川小学校と地域・保護者との関係は密接だったが、近年、その協力関係に変化が生じて
    きたことが指摘された。平成19・20年度のPTA拡大役員会議で議題となった災害時の
    対応(児童の引渡し)は、平成22年度には議題とならなかった。
  E石巻市・宮城県・国における学校防災の取り組み
    平成21年度から22年度前半にかけて、石巻市内の学校現場では防災に対する取り組み
    が進捗しつつあったが、津波対策の必要性は必ずしも十分に認識されていなかった。市内6
    4校の小中学校において、災害対応マニュアル等に津波に関する記載が確認できたのは約半
    数(大川小学校を含む)のみであった。
    宮城県教育委員会の策定した「みやぎ防災教育基本指針」(平成21年2月)には、津波
    に関する記載は一部のみであった。教職員向けの研修では、平成22年度になって津波の基
    礎知識の内容が追加された。
    文部科学省は、学校安全関連の研修を共催し、各種教材を作成していたが、これら教材の
    活用状況は被災3県(岩手、宮城、福島)で12%程度であった。また、国立大学法人の教
    員養成大学では、津波や防災を扱っている大学はごく少数であった。

教員に過失なし