むなしく響く「がんばろう!」の声
日産自動車の検査不正 経営と現場の信頼感を築けB(Yahoo!ニュース)
                        2017年10月20日(金) 08:30
https://news.yahoo.co.jp/byline/yasuitakayuki/20171020-00077140/

現場に関する研究の第一人者である東京大学大学院の藤本隆宏教授は近著「現場から
見上げる企業戦略論」(角川新書)の中で面白いエピソードを紹介している。
       
藤本教授のゼミ生が大手鉄鋼メーカーに就職し、ある製鉄所の経理課に配属された。
藤本教授が朝方、製鉄所を訪問したら、教え子はヘルメットに現場服で手ぬぐいを巻
いてあらわれたという。そんな恰好で経理をするのかと聞くと、教え子はこう答えた
という。

経理は現場を知らなければならないと考え、毎朝早起きして、生産現場の朝礼に出て
いる。これで現場の問題や改善の流れがかなりわかる。それから職場に行って着替え
て通常の経理の仕事をしている。

経営幹部になるエリート社員だろうが、現場に足を運び、その現実を見つめる社員が
いるかどうかで、現場はおろか経営自体を左右する。日産にはそんな経営と現場との
一体感がなかったのではないかと思う。

カルロス・ゴーン氏が経営不振になった日産の経営に関わる前の日産は「いいプラン
をつくるが実行できない会社」と揶揄されたものだ。ペーパーづくりが得意な優秀な
エリート幹部がつくる経営計画は素晴らしいが、現場を巻き込み、愚直に目標に向か
って組織を動かすことができない会社だった。ゴーン氏が経営トップになり20年近く
になる。その間、必達目標を掲げ、実行する組織に変わったのは事実だと思う。

だが、経営層と現場のギャップという過去にもあった課題が、解決されず残っていた
のではなかろうか。今回の不正は、現場をコントロールするだけでは改善されない。
経営と現場との信頼感の回復なくして、不正はなくならない。そのためには現場にと
どまらず、幹部社員ら経営層の意識改革こそが必要なのではなかろうか。