アマゴの稚魚約2万匹がいなくなった養殖池(中央)。排水口など設備に異常は見つかっていない=新見市神郷油野
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新見市のアマゴ養殖場で10月初め、育てられていた稚魚約2万匹が、ほぼ丸ごと姿を消した。現場は周囲がコンクリートで囲まれ、逃げ場のない養殖池。新見署は窃盗事件の可能性を視野に調べているが、大量の稚魚を捕獲する目的や手口は判然としない。稚魚たちはどこへ行ったのか。「産地復活の期待を担っていた」(地元漁協)という養殖場を舞台に、謎は深まるばかりだ。

 自分の目を疑い、立ち尽くした。4日朝、新見市神郷油野のアマゴ養殖場。経営者の松田礼平さん(29)=同所=は出勤直後、いつものように池をのぞき込むと、普段は黒ずんで見える魚影が消えうせていた。

 「すぐには事態を把握できなくて…」

 6月に湯原漁協(真庭市)から仕入れ、どれも体長10センチほどに育っていた。その2倍に成長する来春には県内の飲食店へ出荷したり、イベント会場で販売したりする計画だった。近年、需要は低迷しているものの、売り上げは500万円を見込んでいたという。

■ 空白の5日間

 中国自動車道新見インターチェンジ北西約15キロの民家が点在する中国山地の山あい。現場の養殖場は車の通行や人通りが少なく、誰でも立ち入りができる県道脇にある。

 稚魚がいなくなった池は場内に五つあるうちの一つだ。円形で直径約10メートル、深さ約1メートル。壁と底はコンクリートで固め、水面には鳥から魚を守る防御糸を格子状に数十本張っていた。

 松田さんによると、稚魚群を最後に確認したのは9月29日昼。その後、出張して4日朝に出勤するまでの「空白の約5日間」にいなくなったとみられる。

 発見時、防御糸や池中央にある排水口に異常はなく、他の池の稚魚約1万5千匹、成魚数十匹に被害はない上、周辺に落ちた稚魚も見当たらなかった。「動物に捕食されたり、何者かに網ですくわれたりした可能性は低いのではないか」と松田さん。

 地元ではさまざまな推測が飛び交い、新見漁協の関係者は「水槽付きトラックで生きたまま盗んだのではないか」と見立てる。「夜、トラック数台が走る音を聞いた」(住民)との情報も取り沙汰されているが、関連は定かではない。

 新見署によると、池の構造的に稚魚が逃げ出す可能性は低いとみる一方、所在特定につながる有力な手掛かりはないという。

■ 支援の輪

 新見市神郷地域は三室川の清流を生かしたアマゴ養殖が盛んだったが、後継者不足などで1980年代に相次ぎ廃業となった。松田さんは福岡市出身。2014年、新見市の地域おこし協力隊員を委嘱されて養殖業復活に取り組み、3年の委嘱期間を経て今年2月、養殖会社を立ち上げた。

 その志を無にしてはならないと“事件”後、支援の輪が広がりつつある。

 地元の木工芸作家垣上滋延さん(53)は交流サイト・フェイスブック上で募金活動を始め、松田さんに順次届けている。岡山県内の地域おこし協力隊員経験者ら有志は、インターネット上で出資を募るクラウドファンディングを活用した支援策を検討中だ。

 今月中旬、新見市内のイベントに出て、冷凍アマゴの塩焼きを販売した松田さん。「“犯人”のことを考えても稚魚たちは戻ってこない。養殖業にひた向きに取り組み、皆さんの支援に恩返ししたい」と語った。

(2017年10月28日 23時35分 更新)
山陽新聞
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